必要悪な死神
というと、死神はにっこりと笑って、
「そう願いたいものだな。俺はお前とは、もう少し付き合っていたいと思っているからな。だから、ここでの記憶はすべて消させてもらう。お前は自分が生き返ることに集中していればいいんだ」
と言って、死神は消えた。
彼は、何とか生き返ることができたわけだが、死神との約束通り、記憶は消されていて、しかも、中途半端な部分だけがおぼろげに残っていた。
それも、死神の策略のようなものなのだろうか?
塚原は、数年前に作家としてデビューした。年齢は、三十代半ば、早いのか遅いのか中途半端なのか、微妙だった。
彼が書いた受賞作は、本編のような話で、ホラーなのか、オカルトなのか、これも中途半端だった。
だが、彼の中にあった記憶の中で、
「副作用と、副反応」
「日射病と熱中症」
「不登校と登校拒否」
という三つの言葉が去来していたのだ。
それぞれは、今昔の言葉であり、片方は、昭和のおもむきのあるもので、もう一つは最近言われている言葉である。
しかも、
「片方は、もう片方に含まれる」
という共通性があったのだ。
そんな中で、塚原が小学生の頃にあった不思議なエピソードを元に、考えたのが、この作品だったのだ。
評価は、いろいろ分かれていた。
「なんとも素晴らしい作品だ」
という先生もいれば、
「悪くはないが、受賞にはちょっと」
という先生もいたりした。
それでも、何とか受賞にこぎつけた塚原は、次回作も順調で、どうやら、彼の中にも、
「死神」
がいるようだった。
彼の場合の死神は、
「本当にいてもいいと思える」
そんな必要悪だったのかも知れない……。
( 完 )
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