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根岸 郁男
根岸 郁男
novelistID. 64631
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万引きと代償

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母親「いやらしい動画でも見てたの?」
ゆかり「あらやだ、パパじゃあるまいし」
母親「どうかなぁ。」
   母親、パソコンを開く。
   母親、パソコン画面を覗き込み、操作ボタンを押す。
   動画が再生される。
母親「この人って、ゆかりの担任の宇和島先生じゃないの」
ゆかり「そうなの」
母親「あんた、なんで撮影なんかしたの。見て見ぬ振りをすりゃいいじゃないの。撮影なんてさらにして。あんたしていいことと、してよくないことの区別がつかないの」
ゆかり「確かめたくて、撮影してしまったんだもの」
母親「どうする気。まさか…」
ゆかり「そう、迷っているの」
母親「あなた本気でそう思っている訳?正気じゃないわね。あなた自分がどうすべきかより相手のこと考えたの」
ゆかり「じゃどうすれば」
母親「それくらい自分で考えなさい。間違っても万引き動画をアップしたりはしないことね」
   ×    ×   ×
   ゆかり、コーヒーを飲む。

〇 学校 休憩時間 教室内
   菫の席の隣に他の生徒の椅子を寄せて頬杖を付いて座っているゆかり。
菫「宇和島先生は万引きをした。その際に先生は、ゆかりに顔を見られたことを知っているのか、いないのか。さらにゆかりがスマホで撮影したのを知っているのかどうか。これがまず、問題よ。もし、宇和島先生がすべて知っていたらどうすると思う?」
ゆかり「どうするんだろ」
菫「一番困るのはその動画をSNSにアップして拡散されることよ。そうなったら、」
   ゆかり、生唾を飲む。
菫「教師の職は失うは、社会的な信用はなくなる。そうなったらどうすると思う?ゆかりのことを恨んで殺しに来るかもしれない」
ゆかり「どうしたらいいんだろ」
菫「さーて、どうしたらいいんでしょう」
ゆかり「ああ、どうしたらいいんだろう」
   ゆかり、足を上下にバタバタさせる。
   ゆかり、足の動作をぴたりとやめ
ゆかり「そうだ、先生に、動画削除しました!って伝えるのはどう」
菫「(顔を覗き込み)なんの動画って聞かれたら。先生が万引きした動画ですって答える?」
   菫、ゆかりの顔を窺う。
   始業時間開始のベルが鳴る。
   ゆかり、椅子を戻し、自分の席にぷらぷらしながら戻る。
   宇和島教師が入ってくる。
   教卓の前の宇和島教師。
宇和島「抜き打ちテストの結果が出た。残念ながら全般的によくない。抜き打ちテストだから悪かったという言い訳は通らない。これが本来のお前たちの実力だ。名前を呼ばれたら取りに来なさい」
   宇和島、最初のテスト用紙を見つめ
宇和島「青葉ゆかりさん」
   ゆかり、小さく返事をして教卓に向かう。
   宇和島、テスト用紙を差し出している。
   ゆかり、取ろうとして掴む。
   宇和島、指に力をいれる。
   離れないテスト用紙。
   30点の赤マジックで書かれたテストの数字。
   ゆかり、宇和島を見る。
   宇和島、渡さないように指に力を入れて、ゆかりを見る。
   菫、治も固唾を飲む。
宇和島「青葉、なにか悩みでもあるのか。なんだこの点数は。おまえは公立高校希望だったな。この点数では無理だ。悩み事があるなら相談に乗ってやってもいいぞ。」
   宇和島、ゆかりの顔を覗き込む。
ゆかり「はい、悩みがあります」
宇和島「そうか。放課後少し教室で待っていなさい。いいですか」  
   頷く、ゆかり。
   菫と治、ゆかりを見ている。
   教室内では名前を呼ばれた生徒達が次々とテスト用紙を取りに行く。

〇 同 教室 (夕刻)
   黒板の脇に設置してある壁時計、午後五時を過ぎている。
   ゆかり、窓から外の景色をみている。
   教室にはゆかりのほかは誰もいない。
   引き戸が開いて宇和島が入ってくる。少し緊張の色が隠せない宇和島の顔のアップ。
   ゆかり、宇和島の動作を見ている。
   宇和島、前列の生徒の椅子を引っ張り、少し広い場所に置く。
   宇和島、教卓の前の椅子を持ち出し、先ほど置いた椅子の反対側に置く。
   見ているゆかり。
   宇和島、こっちへと手招きして自分は教卓から持ってきた椅子に腰かける。
   ゆかり、おしり側のスカートを折って、椅子に座る。
   宇和島、眼鏡の中央のブリッジを少し上げ、
宇和島「悩みというのはなんだ」
ゆかり「私の友人のことなんですが。悩んでて、相談されて私もどうしていいかわからなくて…」
宇和島「おまえの友人のことで悩んでいるのか。言ってみろ」
ゆかり「(宇和島をじっと見つめ)私の友人が、名前は言えませんが。ス、スーパーで万引きしてしまったんです。」
   宇和島の顔に緊張が走る
ゆかり「最初は出来心のようでしたが、手が勝手に動いてしまって、気が付いたらスカートのポケットに入っていて。レジが近づくと、買い物かごに戻そうとしたんですがそのままレジを通り過ぎて」
宇和島「その友人というのはお前じゃないんだな」
   覗き込む宇和島。
   頷くゆかり。
ゆかり「私、どうしたらいいんでしょう」
   宇和島、じっと腕を組む。
宇和島「その友人とやらが盗んだ商品を両親と一緒にスーパーに持って行って返して謝ってくるのが正解だろう。スーパー側も初回だったら警察に言わないで許してくれると思うよ。」
   ゆかりは宇和島をみる。
   幾分落ち着いた感じの宇和島。
ゆかり「判りました。そういってみます」
   ゆかり、ぺこんと頭を下げて教室をでていく。
   宇和島、ゆかりの後ろ姿をじっと見ている。

〇 教室 翌日 授業開始前
   生徒達はいつものようにワイワイガヤガヤ雑談に耽っている。
   ゆかり、治の席が空でいないのを見ながら、菫の席に近づく。
ゆかり「治君、今日、休み?」
菫「朝は居たよ。私、見たもん。朝さぁ、パトカーが来てさ、校長室に入っていったんだって。それを見て、治君出ていった。きっと校長室まで見に行ったんだと思う」
   教室入口の引き戸が急に開いて、治が焦った様子で入り込む。
治「う、宇和島先生が学校辞めたって!」
ゆかり「えーっ?」
   ゆかり、驚き菫を見る、
   菫、ゆかりの手を取り治の前に来る
菫「どういうこと」
治「おれもよくは知らんけど、今朝、宇和島先生が校長室に行って辞表を提出したんだって。その前日にはスーパーに行って謝罪して来たんだって」
   ゆかり、菫驚きの表情。

〇 スーパーマーケット 夜 総務部(前日)
   机の上には、盗んだと思われる健康ドリンク二本が千円札の上に置かれてある。
   スーパーの店長、総務部の人たちが集まって宇和島を囲んでいる。
   土下座をしている宇和島。
宇和島「本当に、本当に申し訳ありませんでした」
   土下座をしている宇和島のアップ。顔には涙が流れている。

〇 中学校 校長室 (翌日) 早朝
   校長の机に置かれた辞表。
   腕を組み困った顔の校長。
   頭を下げている宇和島。

〇 ゆかりの家 部屋 (夜)
   ノートパソコン上で再生されている動画。
   ゆかり、動画を削除する。
   削除される動画。
   ゆかり、ノートパソコンを閉じる。
作品名:万引きと代償 作家名:根岸 郁男