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根岸 郁男
根岸 郁男
novelistID. 64631
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万引きと代償

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タイトル   万引きと代償

   登場人物

青葉 ゆかり (15歳)中学三年生
宇和島 剛 (28歳) 中学校の教師
菫 (15歳)ゆかりの友人
治 (15歳) クラスメート
ゆかりの母親(44歳) 
校長  ゆかりの中学校の校長
スーパーの店長
おばちゃん スーパーの客


〇 市内のスーパーマーケット (日曜日 午後) 店内
   青葉ゆかり(15歳)、私服姿で店内に入ってくる。

〇 スーパーマーケット 売り場
   店内の人影はまばらで少ない。
   ゆかりの買い物籠にはすでにジュースやアイス等が入っている。
   ゆかり、お菓子売り場商品陳列台の前でどの商品を選んだらよいか迷っている。
   背後から、背の高いスーツ姿の男性が通っていく。
   ゆかり、気配を感じ、そのスーツの後ろ姿を見る。
買い物籠を持ち、上下の濃い茶色のスーツの男性。
ゆかり「見覚えのあるスーツ。なんか似ているなぁ…」
   ゆかり、スーツ姿の後ろを見ている。
   スーツ姿の男性、足を止める。
   ゆかり、はっとして、商品の方に向き直る。
   スーツ姿の男性、少し振り返りゆかりの方を見るが、すぐに踵を返し再び歩き出す。
   ゆかり、トントンと自分の胸を小さく叩く。
   スーツ姿の男性、陳列棚を曲がり別の商品棚に移動する。
ゆかり「似ている、確かめよう。もしかして」
   ゆかり、その場から消えたスーツ姿の後をゆっくりと追う。
   スーツ姿の男性、陳列棚から冷凍食品などを選び、買い物籠へ入れている。
   スーツ姿の男性、手を伸ばし小さめのドリンクを手に掴み、躊躇なく自分のスーツのポケットに入れる。 

ゆかり「あ、ポケットに入れた。これって万引き?」 
   ゆかり、とっさに、買い物かごを置き、スマホを取り出し、撮影の構えを見せている。
   スーツ姿の男性、さらに手を伸ばす。
   ゆかり、スマホの撮影のボタンを押す。
   赤丸が点灯し撮影中。
   スマホ姿の男性、素早く、ポケットに入れる。
   ゆかり、スマホを顔に移動する。ティルトアップ。
   男性の顔のアップ。
   男性、ふと、ゆかりの方を振り返る。
   ゆかり、瞬時に体を変え背中を見せる。
   ゆかり、暫く、固まったままでいる。
ゆかり「(首を左右に振りながら呟く)気づかれてなんかいない、いない」
   暫くして、ポンとゆかりの肩が叩かれる。
   ゆかり、肩をすくめたまま、叩いた方を見る。
   見知らぬ、おばちゃんが迷惑そうな顔で見る
おばちゃん「買わないんだったら、そこどいてくれる?。私、あんたが邪魔で手が届かないんだわ」
ゆかり「あ、すみません」
   ゆかり、小刻みに足を移動させる。
   ゆかり、スーツ姿の男性の方を見る。
   先ほどの場所にはいない。
   ゆかり、あたりを見回すが近辺にはいない。
おばちゃん「邪魔、邪魔。商品の前に立たないで。買わないんだったらそっち行ってよ」
   おばちゃん、迷惑そうな顔をしている。 
   しきりに謝るゆかり。

〇 スマホの再生画面
   スーツ姿の男性が陳列棚の商品に手を伸ばし、小さめのドリンクを手に取る。
   そのまま、自分のポケットに入れる。
   画像がティルトアップし、男性の顔に。
   画面の男性、ゆかりの方を見る。
   スマホの画像が急に乱れて流れる。
   停止ボタンを押すゆかりの指

〇 中学校 教室 (翌日)
   ゆかりの机の周りに集まっている友人の菫(女子)と治(男子)。
治「やべーよ、これうちの担任の宇和島先生じゃんか。なにやってんだよ先生のくせに」
ゆかり「どうしよう、私、顔見られたかもしれない」
菫「でもさ、ゆかり。私服で行ったんでしょ。しかも離れているじゃん。顔見られてもゆかりがどうかわかんないと思うよ」
ゆかり「このあと私どうしたらいいのかな」
菫「さぁ、どうしましょ」
治「SNSにアップしなよ。私は見た!万引き教師、スーパーに現る。その瞬間を捕らえた。ていうタイトルですれば?再生回数が増えて、がっぽがっぽ稼げるぜ」
菫「そんな事しれたら恨まれるかも。恨まれて殺されるかもよ」
治「殺しはしないよ。でも自業自得」
菫「SNSにはアップしない方がいいと思うな。先生の信用がガタ落ちだし、世間体だって悪い。教職を辞めなくちゃなるかも。」
治「教師が首になったら、仕事も探さなくちゃならない。万引き教師なんてレッテル貼られたらどこも雇ってくれない。仕事がなくなると金もなくなる。自殺するかもしれんし、反対にSNSにアップした人間を恨むだろう。必死に探してアップした人間が青葉ゆかりだとわかったらどうなると思う?行き着く先は恨みによる犯行に走るってことにもなりかねない」
ゆかり「怖ーい。どうしよう」
   始業のチャイムが鳴る。
    ×     ×    ×
   引き戸から宇和島教師が入ってくる。濃い茶色のスーツ。
ゆかり「(呟く)おんなじスーツ」
   ゆかり、宇和島を見る。
   宇和島、まっすぐ教卓へ歩く。
声「起立!」
   誰かが声を掛け、全員起立する。
   宇和島教師、教卓の前に立つ。にこにこしている。
声「礼!」 
   全員、礼をし、着席する。
   宇和島、小脇に抱えている白い束の用紙を教卓の上に置く。
宇和島「今日は朝から試験だ。みんなもわかっていると思うが今年一年だ。泣くか笑うかは君たち次第だということを忘れるな。」
   宇和島、試験の用紙を教卓の上でトントン叩く。
  宇和島、じろりとゆかりを見る。宇和島の顔のUP。
  菫と治、ゆかりの方を見る。
  首を竦めるゆかり。
  ×   ×    ×
  生徒達が、背を丸めて試験に臨んでいる。
  宇和島、両手を後ろに回し、机と机の間をゆっくりと歩いている。
  宇和島、ゆかりの脇を通る。
  ゆかりの視野に宇和島のスーツ姿が入る。
  ゆかり、書き間違えて消しゴムでごしごし消す。
  勢いあまり、テスト用紙が少し破け、その際に間違えて指で消しゴムを落とす。
  床に転がる消しゴム。
   通り過ぎた宇和島、振り返り、しゃがんで消しごみを拾う。
  宇和島、消しゴムを机の上にポンと置く。
宇和島「(ゆかりの顔を覗き込み)焦るな。時間はまだある。ゆっくり書きなさい」
ゆかり「(頷き)はい、」

〇 休憩時間 廊下
 ゆかり、廊下の壁に背を預け
ゆかり「怖かったぁ、あの目線」
菫「で、何かいわれたの」
ゆかり「なにも」
菫「よかったじゃない」
ゆかり「却って不気味よ。ああ、生きていくのがつらい。私の今後の人生どうなるのかなぁ」
菫「心配ない、心配ないって」
ゆかり「ったく、他人事なんだから」

〇 ゆかりの家 ゆかりの部屋 (夜)
   ゆかり、USBメモリをノートパソコンに差し込む。
   ゆかり、動画再生ボタンを押し、再生する。
   万引き動画の再生。
   突然、ドアが開いて母親が入ってる。手にはコーヒーカップが入っているお盆を持っている。
   ゆかり、思わずノートパソコンを閉じる。
   母親、その異変さに気づき、
作品名:万引きと代償 作家名:根岸 郁男