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はなのうえのものら

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これは、もう何年前の話になるであろうか、すっかり年月も忘れてしまった、随分と前の話——と云っても、五、六年前の話である。中学時代の話だ。
私には丸尾という名の友がいた。彼は出会った当時より小さく、おとなしい外観をしておったのだが、しかし性格は外見とは打って変わり、誰とでも仲良くできる、活発でもあった、自由闊達という言葉がよく似合う奴であった。また、そんな奴であるから、こんな陰気臭い私とも仲良くしてくれるという、少し変わった奴でもあった。(と云うのも、どうやらその当時の私は、元来の陰気臭さが相俟って、少しく怖がられていたそうな。)
丸尾は学校の誰とも仲良くしていたのは前掲の通りで、しかし、飽く迄も私が見た範囲での話ではあるが、しかしあまりに色んな集団の中には必ずと言っていい程おり、その誰とも仲良くしていたのであったから、これはまだ仲良くなる前の話であるが、その私は、丸尾は双子なのだと勝手に一人腑に落ちていたものだった。実際、丸尾とよく似た櫛田という奴がいて、丸尾と懇意になってこその今であれば全くの別物だと分かるのだが、懇意にする前までは見分けがつかなかったものであった。
で、私とその丸尾との、所謂舐め逸れと云ったものだが、実は思い出せずにいるのだ。と云うのも、あの誰とでも仲良くできる丸尾である。恐らく、私以外の者も、私と同じくして、いつ仲良くなったのだろうかと首を傾げる事だろう。いつの間にか仲良くなっている、いつの間にか仲良くなれるという、左様な性質を持っている丸尾だからこそ、誰とも確執を持つことなく、友としていられたのであろう。皆が皆、その柔和な、人畜無害そうな外見とに、無意識にも惹かれてしまっているのだろう。——私もその一人なのである。
だが、これだけははっきりと覚えている事がある。それは、私と丸尾が親友になる端緒である。——と、早速に矛盾することを叙してしまったが、向後の展開をご覧になれば、きっと読者も納得してくれるだろうと信じておる。

——中学三年生時分の秋頃だったと記憶しておる。私達は運よく前後の席——前が丸尾で後ろに私と云う席順だった——で、また、私が一番後ろの席であったことも相俟って、私達はよく——と云うより、丸尾がよく後ろを振り返り、私達はよく談笑をしあったものであった。——そしてこれまた運よく(運悪くでもあったが)、言わずもがなの中学三年生、それも秋となれば受験シーズン真っ盛りである。故に、担任教諭であった早見と云う女性の担任は、下手に席替えしてしまうと受験への集中力を削いでしまうとの断を下したのだろう、私たちは冬休みに入る前まで往来前後の席に居続けられることが叶ったのであった。
席が前後と云う事は、給食の時間では必ず隣の席であったし、グループワークでは四人組にならねばならぬ制約がありそれは中々叶わなかったものの、例えば二人組を組めと言われれば私達は真っ先に前後で合致したものでもあった。また、これは昵懇の仲にまでなった後の話ではあるが、互いの意中の人について話し合ったりもしたものであった。だが、
「——丸尾、好きな奴いるんでしょ?」
「いるよ。え、お前もいるの?」
「おぉ、いるよ」
「じゃ、せーので云おうよ」
「いいぞ」
「せーの!」
と云って、私は言わなかった。言わなくて良かったと本気で安堵している。その口から私が想っていたものの名が出てきたのだ。
「なんだよ! お前も言えよ!」
と丸尾はふざけた調子で言っていたが、片や私はショックではあったが、丸尾との友情が危うく終焉を迎える羽目になっていたであろう未来への恐怖と、それを間一髪で回避できた己に本気で称賛を送ったものであった。
で、私は致し方なく、斜向かいにいたものの名を口にし、
「じゃ、卒業終わったら告白しような。んで、フラれても付き合っても絶対その後飯行こうな!」
と固く約束を誓い合ったのだったが、そも私はそ奴は好きでもなんでもなかったため、また、誰かが盗み聞いていたのか或いは丸尾が誰かに口を滑らせたか知らぬが、その、私が彼女を好きだということが教室に広まってしまったために(そしてそれを知った例の彼女は「やだ~きも~い」なぞと蚯蚓がうねるようにして嫌がっていたのに、私も大して好きではない人に左様にされることに嫌悪感を抱いていたものでもあった。無論、悪いのは私の方であったから黙っておったが)、それを事由に告白を取りやめたことにした。——正直助かったと安堵したのは私が墓場まで持って行く秘密である。
で、その丸尾はまんまと告白に成功していやがったのだったから、この野郎とは思いながらも、私の初恋の終わったのを潔しとして諦めるに至ったのであった。
——とあれ、それは私たちが昵懇の仲になった後の話でもあるのだが、しかし実こそその間に二月程話さぬ時期があった。
と云うのも、時期も時期——中学三年生の秋口であったのだ。皆が皆、受験に淫する時期であり、それは私達も例外ではなかった。
殊に丸尾は私とは違い勉強が出来た。故に、私なんぞとは違い、目指す高校もハイレベルで、しかしどうやら行きたい高校の偏差値には僅かばかり内申点が足りぬと、勉強が足りぬと云って、毎日毎日過去問と睨み合う日々が続いたのであった。——いや、それは何も丸尾に限った話ではなかった。その頃には休み時間をも勉学に宛てる者も珍しくなく、それに釣られてか、平生から勉強嫌いであった者までも過去問題を開いておったのには目を丸くしてしまったものだ。——と云うが、実はそのうちの一人が私であったのは言うまでもない。
で、私はそれらの雰囲気に釣られて黙々と勉強に勤しんでいたのだったが、何せ友達のいない私であったからに丸尾という唯一のつながりを持てたことの嬉しさは並々ならぬものではなかったのだったが、それがこうも——勉学の話以外全くせぬようになってからは、全く友らしいこともせず、ひたすらに孤独を感じるようになってしまっていたから、私は酷く裏切られた気分に陥ってしまっていたのだった。友達になった嬉しさの反動と云うものだったのだろう、私も頭では分かっていた。——勉学に集中せねばならぬ時期であるのは重々承知していたはずだったのだが、何をどうしてか、私は左様な、面倒臭い性格に成り下がってしまっていたようであったのだ。
と云うのも、丸尾の奴は私以外の友達とは友達然としていたのだ。
——ある日廊下ですれ違った折、所謂スクールカースト上位の奴らとは普通に話しているのを見かけた。其奴らは見目姿も良ければ勉学にもスポーツにも対応できる、所謂勝ち組という奴らで、私とは正反対な性質をしている——何もかもが私の上位互換である存在である奴らなのだ。丸尾はそんな奴らとも仲良く出来るのは当然のこと、何やらお気に入りとでも云おうか、私の目には、丸尾は彼らにとても気に入られているような、カピバラのような柔和さ温和さに癒されているように映ったのだから、それに特段嫉妬なぞはしなかったのだが、しかし、何やら、一寸こう気色悪いくらいに丸尾をペタペタ触る彼奴等に少しく嫌悪感を抱いたのは言うまでもない。
作品名:はなのうえのものら 作家名:茂野柿