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浦㞍佑月は甚だ不安であった。
折角に彼女が出来たというのに、左様な思いをするのは何か腹立たしくもあった。——いや、彼女が出来たが故の懊悩とでも云おうか、痴愚の類のものであるのは想像できていた。
≪——授業が終わったら話がある≫
とのメッセージが彼女より送られてくれば、誰であれ——男であれば腹を括らざるを得ないだろう。予期される壮大な——或いは面倒な痴話喧嘩の幕開け、いわばプロローグを飾る文章であるのは殊更に云うまでもない。
(まさか好きでもないのに付き合ったのがバレたか…?)
比較的教室の後ろに席であったのが携帯を隠すことを比較的容易とさせ、佑月は彼女からの文章を眼光紙背に徹することが叶った。が、しかしそれも結局往年からの考えすぎる性質が高じて、(これはもしや別れ話か…!)と勝手に決め付けると、授業が終わる頃には意気消沈する顛末となっていた。
緊張により肚の調子までも心成しか悪くなってきたような気もしながら、授業が終わるやすぐと彼女である山崎愛華のいる教室へ向かうも、彼女は、
「あのね、なんかね、一宮ちゃんがなんか私の悪口言ってるんだって」
と、至極どうでも良い、全くの的外れな事案を言ってのけた。
それには何か首皮一枚つながった安堵と鳩に豆鉄砲が綯交ぜにされたような塩梅で、その想像するところの斜め上、或いは斜め下の相談事——ともどうか呼べるか分からぬそれには、佑月の失笑は次第に大きくなっていった。
「——ねえ! ちゃんと聞いてるの⁉」
「あぁ、うん。いや、でも考えすぎじゃないか? ほら、愛華と一宮は仲が良かっただろ?」
だが最早自分事ではないのであればと早速億劫になってきた矢先、
「なんか、一宮ちゃん、私が佑月君と付き合ったから、陰口言ってるっぽいの。佑月君一宮ちゃんと同じクラスでしょ? 何か知らない?」
と、山崎がひどく佑月をつけ上がらせることを言ってのけしまったのであるから、全くの棚から牡丹餅でも——牡丹餅どころではない、棚から一攫千金の小判がざっくざく湧いて出てくる感じの、全く予想だにしていなかった山崎の言に鼻の下を伸ばした佑月は、その一宮の件は一先ず置いておき、今はこの彼女の機嫌気褄を宥めるが先決との断を下すと、
「そうか。まあ、俺もまあまあ一宮とは仲良かったしな。連絡もまあまあしてたけど、辞めるよ。もう、連絡取らないから」
と言っておく。
その内心、(おいおい、一宮まで俺の事を好きなのか? だとしたらこいつとは別れておくべきだなあ)なぞと沸いた考えは後々熟考——夢想してみるとして、とりあえずの一件落着に清々しい気持ちの佑月であったが、
「一宮も嫌だけど、私以外の女と連絡取るのも嫌だ」
と、山崎はこの機に乗じて言ってくるのであったから、せんの束の間の悦びもどこへやら、全くに女の勘とは恐ろしいものだと、半ば諦観、半ば感心する佑月なのであった。

——この頃の佑月は甚だ得意であった。
この三日前より山崎と付き合い始めた佑月であったのだが、その嚆矢は全くに——佑月をつけ上がらせるに十二分なものであったのだ。——それに、どうにも一宮が己の事を好いているのではないかと、しかし断言するにはまだ早いがそういう陰影が含まれたであろう先の発言にも、また佑月の心持は得意になってゆくばかりなのであった。
一週間前——高校二年生に上がったばかりの五月中頃、佑月は新しいクラスにて何か己がスクールカースト上位なる存在なのではないかとの思いも侍らせながら、学年の二大マドンナの美人担当、一宮との連絡を楽しんでいた。
帰国子女と己を偽り(幼時カナダに一年程住んでいただけで、その記憶もなければ英語もからっきしなのが実態である)、その連絡全てを英語にしてしまったのは、佑月の——何の特出したものない佑月の精一杯のアプローチの手段であったのだが、それが因してか一宮の返信が遅くなってゆくばかりなのに、そろそろ日本語で会話してあげても良いかなと思っていた矢先でもあったのだった。
——新クラスに馴染もうと、そしてスクールカースト上位の者達とつるむようになってから、自分も女子にモテたい、彼女が欲しいとの高二心から来た衷心よりの性欲が、佑月にクラスの女子全員から連絡先を聞くという軽佻な事をしでかさせており、言わずもがなその愚挙なぞ、佑月如きではけんもほろろにあしらわれてしまうのは然もありなんと云った所だったのだろうが、しかし数打てばなんとやらの法則は本当なようで、そのうち数人とは連絡を取ることが叶い、一宮はそのうちの一人なのであった。
それに小学校の頃より女友達はおろか男友達すらまともにいなかった三軍男子であった佑月は、長らくその身を浸しすぎたのであろう、高校二年生になりようやっと来た己のモテ期(たかが返信が来た程度であるが)には信じられぬ気持ちで一杯となり、よもや本当に女子から連絡が——それが殊、学年一、二を争う美女からの返信となると、何やら全知全能感が、今であればスクールカースト上位に本当に食い込めるのではないかとも傲慢にも思うようになっていったのであった。
で、そんな連絡を取る女子の内の一人から、連絡先を教えて欲しいと友達にせがまれていると聞けば、もう有頂天も通り過ぎ、最早何か怖くなってきもする。しかも、それが学年の二大マドンナの清楚担当で、後の佑月の彼女となる山崎愛華となれば、己はもう確実にスクールカースト上位であると確信するには十分であった。
≪——山崎愛華って知ってる?≫
≪あー、名前は聞いたことある≫とメッセージには叙しておいたのは、己は左様に女にがっつく気配のない、紳士な男であるとのアピールを今のうちにしておこうとの疚しい考えからきたもの。
≪連絡先交換してやってくれない? なんか浦㞍君と仲良くなりたいんだって≫
≪おー! 全然いいよー!≫
そして送られてきた山崎愛華からのメッセージは、至ってシンプルかつ直球であった。
≪——こんにちは、山崎愛華です。私の事知ってるかな?≫
≪浦㞍佑月です。勿論! 学校で一二を争う美人だって聞いてるよ! それに、成宮と俺は仲良かったから≫
——成宮とは佑月の高校一年生の時からの親友で、山崎愛華とは一年の冬より交際し、そしてすぐと破局したのを本人から聞いていた。その成宮こそ、スクールカースト上位の者で、それは佑月とは違い中学の頃より——いや、土台生まれも育ちも団地暮らしの、父を知らぬ佑月とは違い、高級マンション街の一室に住み、両親から温もりを貰っていて尚姉と云う男児にとって憧れの存在をも用意されておりながら、当の本人はその塩顔のイケメンフェイスでかつサッカー部、また勉強も出来るという、遺伝子からして佑月とは質の違う、正に生まれついての勝ち組に属する男なのである。
作品名: 作家名:茂野柿