人生×リキュール ワニンクス・アドヴォカート
私には、正義を貫いたあなたの顔が直視できませんでした。
申し訳ありません。
本来ならば、こんな書面などではなく、直接お会いして謝罪すべきなのですが、私にはその勇気がありません。
申し訳ありませんでした。
どうかお許しください。
お体をお大事にされてください。
いつまでもお元気で。
敬具
読み終わった手紙を畳んだ彼は、グラスを引き寄せた。
それは、かつて老人からもらったものだ。卵色をしたリキュール。それを炭酸飲料で割っただけのものだ。アルコール度数も低く、まったりとした味がデザートのようだったので、すっかり気に入ってしまった。
縁側で愛猫と戯れながらパッチワーク作りに精を出している妻を眺めながら、老人が言っていた言葉を思い出した。
「人生を労う一本を!」
※ワニンクス・アドヴォカート
特殊リキュールの中でも、クリームや卵を使ったリキュールは、乳液状をしているため「イマルション・リキュール」と呼ばれる。カクテルにも広く使われている人気勢力の先導役を努めてきたのが、このオランダ生まれのエッグ・リキュール、ワニンクス・アドヴォカートである。オランダ語で『弁護士』の意味を持つこの卵酒。飲むと舌がよく回るようになって、弁護士のように弁舌爽やかになるという由来から来ている。ワニンクス社の工場では、材料として使用される年間600万個の卵が、30万羽もの鶏によって生みだされているらしい。見渡す限り鶏鶏鶏。卵卵卵。さぞかし圧巻の眺めであろう。
この格調高い卵酒を使ったカクテルとしては、セヴン・アップなどの炭酸で割った爽やかな「スノーボール」や、チェリーブランデーとソーダを合わせた「バタフライ」などが知られている。いずれも飲みやすく優しい味わいが特徴だ。
作品名:人生×リキュール ワニンクス・アドヴォカート 作家名:ぬゑ