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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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あの穏やかな ✕ 椰子の木の下

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プロローグ



 風は感じない。
 真っ青な空に白い雲が、所どころに塊となって浮かんでいる。小さな波が砂浜にゆりかごを揺するように打ち寄せ、その優しい感触がマルコを目覚めさせた。

 しかし冷えきった体に力を入れることは出来ない。砂の上に横たわったまま、どれほどの時間、目をつむったまま、胸元に打ち寄せる波を感じていただろうか。水に浸かる足元にはヤドカリが数匹潜んでいたが、その僅かな感触など彼には伝わっていなかった。

 幸いにしてこの時間は引き潮。そのままじっとしていても、彼の体は砂浜に打ち上げられた漂流物と同じように、自ずと海水から追い出されたようだ。照り付ける太陽により、彼の体温が徐々に回復すると、ようやく立ち上がろうという気力が湧いて来た。しかし、それまでどれくらい眠っていたのだろう。いや、気を失っていたと言うべきか・・・。

 マルコは首をうなだれ、砂浜の波打ち際に、膝をついた状態まで起き上がった。
(近くに仲間はいるのだろうか?)
まず最初に考えたことはそれであった。照り付ける日差しに目を細めて、辺りを見回しても、大きなカモメが数羽舞う以外、動く生き物の姿は見当たらない。

 砂浜には数本の椰子(ヤシ)の木が立ち、その向こうには崖がせり上がり、その奥に密林が広がっているようだ。反対に後方を振り返ってみたが、水平線まで穏やかな海が続く以外、何も浮かんでいない。自分がどれくらいの時間漂流していたのか、全く見当もつかなかった。
(今はいつだろう?)
真上に昇る太陽を見て、昼頃だというのは分かっても、何曜日なのかはもう知る術はなかった。
 重たい右足を砂に突き立て、膝の上に肘をついて立ち上がろうとしたが、フラフラと倒れ込んでしまった。
(フフ、やっぱり無理かな)
体力は残っていなかったが、敢えて強気に笑ってみた。
 マルコはもう一度力をふり絞り、砂浜を這って奥の断崖の下まで来た。そして一番太い椰子の木の根元にたどり着くと、その幹を背もたれに海を向いて座った。
(これからどうするべきか・・・)
考えれば考えるほど、考えるべきことは山の・・・、いや、この海の水のようにたっぷりある。まず、これからのサバイバルに対しての困難を受け入れるしかなかった。
しかし頭上の椰子の葉が、うまい具合に日差しを遮り、マルコは穏やかな気分を取り戻すことが出来た。
(もう目を覚ますことは、ないかもしれないな・・・・・・)
そうして再び襲って来た睡魔を、抵抗せず受け入れることにした。