あの穏やかな ✕ 椰子の木の下
★ゴン!
「はぁ!」
突然マルコの意識が戻った。気が付くと自分のお腹の上に、大男が頭から血を流して倒れている。
(なんだ一体!?)
マルコは前方を見た。風が強く吹く暗闇の中、焚火の炎を背景に、手に斧を持った一人の男が立っていた。
(これは?)
マルコが状況を確認する間もなく、その男は海の方に走って行ってしまった。そしてしばらくすると、
「あ、ああ、ぎゃー!!!」
細身の海賊の叫び声が聞こえた後、風の音しか聞こえなくなった。
(だ、誰だ? 仲間か?)
そしてその男は血まみれで、ゆっくりと歩いて焚火の方に戻って来た。マルコは取り乱した。
(どうしよう。逃げないと!)
すぐに立ち上がって、走りだそうとした。
「待って。まて下さい。私、味方」
その声を聞いてマルコは立ち止った。そして振り返ると、斧を地面にゆっくり置いて、両手を広げて見せる男をしっかりと見た。
「君、君は・・・」
マルコはこの顔に見覚えがあった。あのサンタ・アナ号に乗っていた、顔に傷を負った奴隷だったのだ。
「私は、クンタ。味方、もう、だいじょうぶ」
「ああ」
マルコはそのまま腰が抜けて、砂浜に座り込んでしまった。
その晩、二人は小舟にあった食料を食べて、お互いの再会を喜んだ。
作品名:あの穏やかな ✕ 椰子の木の下 作家名:亨利(ヘンリー)