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人生の織物

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その3


朝出がけの落ち着かないときに、例の才女からラインが入った。この前知らせてくれた情報とは別の、ラインのサイバー攻撃についてらしい。パソコンもスマホもセキュリティが入っているのであまり気にしてはいないが、彼女はいやに焦った文面で書いて来た。内容はともかく、そういう話がキャッチボールで交わせる相手はありがたい。

昨日の夕方掛けてきた電話はいつも話している相手だったが、電話をとるや否やひどく怖がっているように感じられた。
きのう一日に起きた三つのことを私に訴えたかったようだ。私にしてみれば前歯の差し歯がぽろりと落ちたのも仕方ない事だし、介護施設に入居中の者が死にそうだというのも納得できるし、ボール遊びをしていた子供が窓にボールを投げてガラス戸が割れたというのも致し方ないことと思ったが、三つのことを繰り返し五回ほど繰り返し繰り返し聞かされるとやはりおかしいとしか思えなかった。

そのような負の話を他人に話す友人は他にはいないので、こりゃまづいなと一瞬思ってしまった。あたかも化け物屋敷に迷い込んで、助けてたすけてと袖をひっぱられている気分だ。
自分も対人関係で困った時小学校からの同級生を頼っていた時期があった。彼女から私に近づいてくることは一切なかったが、そのわけがようやくわかった。他人にもたれるということはそういうことなんだってこと、今になって理解できた。


作品名:人生の織物 作家名:笹峰霧子