人生の織物
その7
夫の家系は親兄弟が脳血管系で亡くなっていて、義母も義兄も病名は異なるがそれぞれ脳血管系だった。精神病とか癌とかも遺伝を怖がる人がいるが、倒れるまではわからない脳血管系も遺伝の要素があるのだと、その時知った。
そういうことをわきまえていた夫は若いときから自分は早く死ぬだろうと言っていた。死にはしなかったが、言葉通りその時は確実にやってきた。59歳、定年の一年前のことだった。
じりじりやってくる他の病気とちがって、脳血管系は或る時突然目の前で倒れるから、同居している者はびっくり仰天する。例に漏れず私も最初に夫が倒れたときは何のことかわからず、前兆さえも気が付かなかった。
脳がやられると人格が変わる、その事も私には恐怖だった。実母が同じ邸内の別棟に居たが何しろ高齢だったので病院通いの付き添いもしなければならず、助けてくれる者もいなかったので、私は同時に二人の世話を自分だけで頑張った。