池の外の惨めな鯉
「どういう意味だね。被害者の子供だろ」
「被害者に子供はいません。確かです。それに山本和彦の同級生にも、そんな子はいませんでした」
「それも確かかね」
「クラスメイトや教師から証言が取れています。でも山本和彦は、いつも桐生伊織と一緒にいると話していたと」
「・・・じゃ、山本君は何を言っとるんだ」
「桐生伊織は、山本和彦の想像上の友達だったんです」
「そんな、まさか」
韮山刑事と林弁護士は、険しい表情で取調室に戻った。
「ああ、刑事さん。桐生伊織君が来てくれました」
そこに立っていた和彦が、笑顔で二人に話しかけた。
「え? 何の事だい?」
韮山は眉を寄せて聞いた。そして老弁護士も和彦の様子を伺うように、目を見て近付いて、
「山本君、何を言っとるんだ? あ! 何をす・・・」
ドタン! ガタン!!
「い、伊織君! 何をしてるの!?」
「やめろ! 山本!」
「た・助けて・・くれ・・・、ぎゃ、ぎゃーーーーー!」
ガタガタン!!!
「山本! おとなしくしろ!」
「伊織君! ダメだよ!」
「やめろ! うっ!!」
「なんてことをするんだよ。やめてよ伊織君」
「く、苦しい・・・なんて力なんだ・・・や、やめろ・ぐぅぅぅぁぁぁあああ!!!」
バキッ!
「・・・はぁ・・・はぁ・・・はあー」
取調室の床に、韮山刑事と林弁護士が倒れている。和彦はひとり、笑顔でその光景を見下ろしていた。
「伊織君・・・やっぱり、いつも僕を守ってくれてたんだね」
了