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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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池の外の惨めな鯉

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序章はエピローグから



「桐生伊織のことですよ!」
山本和彦は、そう叫んだ。

 小さな倉庫室のような殺風景なその部屋には、事務机と椅子以外何も用意されていない。一応小さな窓があった。でもそれは、心和む風景とは程遠い。なぜなら鉄筋コンクリートむき出しに、直接ペンキを塗ったような壁にあって、外には大工場の煙突くらいしか見えないからだ。工場労働者が仕事でちょっと打合せをするくらいなら、この部屋でも我慢できるかもしれないが、その椅子に座らされた和彦には、ここの雰囲気は冷たく安心できるものではなかった。
 ドアを開けたままの入口の横にもたれかかりながら、刑事の韮山は繰り返して聞いた。
「君がやったのは判ってるんだけどなぁ。そんなデタラメを大人が信じるとでも思ってるのかぁ?」
「だから、桐生君が・・・伊織君を探してよ」
「その桐生伊織とやらは、お前さんの友達じゃなかったのかぁ? そいつに罪を擦り付けようたって、無駄なことだよ。おん?」
「違う! お願いだから桐生君を調べてください!」
「そんな奴、捜査線上に浮かんでいないし、取り調べをするわけにはいかないんだがなぁ」
そう言いながら韮山は、和彦の机に近付いた。
「お願いだから。彼を見付ければ真相が判ると思います!」
和彦は桐生伊織との会話や出来事を説明したが、韮山刑事はまともに取り合ってはくれなかった。
「そうか。じゃあ君は、その桐生伊織とやらと共犯だったと言いたいのかぁ。あん?」
「そうじゃありません」
「では、自分は彼に指示されただけだとでも言うのかなぁ」
そう言うと韮山は和彦の正面に座り、三枚の紙を机の上に広げて見せた。それにプリントされた写真のどれにも、和彦の姿が映っていた。
・河原の土手に立つ不良生徒、内田慎司と和彦がコンビニの監視カメラに映る様子
・体育館で担任教諭、中西由貴の剣道の防具を、和彦が抱えて座っている様子
・桐生家周辺の工場のカメラが捉えた、和彦が振り返りながら走る様子