あれから12年―1
「いらっしゃい。イヤー、昨日はひどかったですね」
とおにいさんは明るい表情で私を迎えてくれた。
床屋さんのテレビも、地震のニュースをやっていた。
目を覆うような惨事だった。
気弱な私は、正視することができない。
それで、家を抜け出して床屋に来たのだった。
それなのに、おにいさんは、地震の話ばかりした。私の気持がわかっていなかったようだ。
しかし、おにいさんはいろいろ物知りでもあった。
「食糧が無くなる前に買い出しに行きなさい」
「水を用意しなさい」
などとアドバイスしてくれた。
私は帰宅すると、スーパーに行った。
缶詰をたくさん買った。
明日からしばらく、猫と一緒に「さんま蒲焼」や「カップヌードル」が食べられると思うとすこし楽しみでもあった。
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あれから12年たったのか。
ついこの前のことのようで忘れられない。