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覚悟の証明

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 そのため、わざと精密機械ばかりを製造し、サイクルを短くして、どんどん購入させようという作戦もあったことだろう。
 しかし、生産のスピードも早ければ、廃棄も早い。
 そうなると、精密機械を使った製品がゴミとして、廃棄されることになるが、焼却できるわけでもなく、金属が錆びたり、プラスチックが腐敗して、公害を引き起こし、今問題になっている、
「地球温暖化」
「イオン層の破壊」
 と言った問題から、異常気象を引き起こす原因になってしまうのだ。
 そういう意味の解決策として、コウモリを研究していた。コウモリには、悪いイメージのものもあれば、同じ理由からいいイメージの解釈もある。
「悪いイメージの開発の裏には、いいイメージがあるはずだ」
 という発想が考えられるようになると、コウモリというものの存在が人間という存在とシンクロしてきて、いずれは、魔女が作ろうとした、
「不老不死のクスリ」
 などを彷彿させるものができあがるかも知れにあ。
 それが、
「命の再生」
 というものであったらどうだろう?
 一度死んでも、ある条件が整えば、生まれ変われるというものだ。
 同じ肉体に戻れるかどうか分からないが、薬の効果によって、別人として生まれ変われるかも知れない。
 だが、これは、
「死」
 というものを考えた時には、再生がいいことのように思うのだが。問題は、
「死んでしまった人間が生き返る」
 という考え方に立ってみれば、
「同じ肉体に戻らなければ意味はない」
 と言えるのではないだろうか。
 しかし、人によっては、
「他人として生きていくうちに、いずれ、その人の意識が自分と結びつき、記憶なども、繋がってくるのは、遺伝子の力なのかも知れない。つまりは、遺伝子の活性化が、生き返るということを再生するという意識に変えるのだろう。遺伝子によって意識が他人になったとしても、自分であることに変わりはない。あなたの近くにも、急に別人のように思えるようになった人がいるのではないか? まわりから、生まれ変わったと言われているその人は、本当に生き返ったんだろうな」
 と言えるのではないだろうか。
 不老不死をテーマにしたつもりのクスリの開発だったが、それは次第に再生能力を目指すようになった。
 そもそも、不老不死などという薬は、矛盾している。作ったとしても、一般に販売するわけにはいかない。それをやってしまうと、他の薬が売れなくなり、本末転倒な形になる。それによって、他の薬を開発しているところは、廃業してしまい、この薬だけが生き残る。
 するとこの薬がいずれ効かなくなると、すでに他の薬はこの世に存在しない。そうなってしまっては、もうどうすることもできない。
 そう感じた松前は、この開発から手を引いた。彼が子の簡単なことにやっと気づいたからだ。
「これって、治験のおかげなのかな?」
 と考えたが、深く考えることはしないようにしようと思った。
 下手に考えて、自分がコウモリのようになってしまっても困る。コウモリは一つのことに、善悪両方の発想を持っているのだった。それでも、最期には暗く湿った場所に、ずっと人知れずに暮らすしかない。それは今の開発を諦めた開発者としての自分がいる。
 中心人物である松前が辞めてしまうと、他の連中もどんどん辞めていく。
 最初こそ、
「松前は何度ここに至って逃げ出したりしたんだ?」
 と他の研究員が言い出しただけではなく、赤松も、そう感じていた。
 しかし、何も言わない松前を見ていると、そこに覚悟が感じられ、彼が辞めることに理解を示した赤松だった。
 赤松が松前を家に招いたのはそんな時で、松前も覚悟を持続している中での訪問だった。
 松前は、しっかりと覚悟をしていた。
 彼にとっての覚悟とは一体何なのだろうか?
 すでに治験も辞めてしまい、結局、不老不死とは、
「まるで不治の病の延命措置以上のことができるわけではない」
 という結論に至り、そのことを他言無用という、治験者としては理不尽であったが。やり切った気持ちになっていた松前にとっては、それでもよかった。
 それが覚悟となったわけだが、松前にとってのその覚悟こそ、この薬の最大の特徴である、
「再生能力」
 だったのかも知れない。
「ゆいさんを僕にください」
 と言った覚悟の表情、これは、松前にとっての最高の覚悟であった。
 その表情を見て、
「よし、分かった。もう何もいうことはない」
 と言って、二人を祝福した赤松の顔にも、松前と同じ覚悟が見えていた。
 そう、赤松も同じように治験をしていたのだった……。

                 (  完  )



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作品名:覚悟の証明 作家名:森本晃次