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愛情

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その4


心配ごとがなければ独り住まいでもきもちは晴れ晴れと暮らせる自分だが、去年の春から高校三年生の孫が定刻の早起きができなくなり学校を休む日が多くなった。四月、五月はランダムな休み方だったが、六月からは全く行けなくなって母親への反抗もひどかったらしい。

娘からのメールは次第に焦りの色が濃くなって行った。高校を卒業できなくても大学に行く方法はいくらでもあるからと、かなり万全の段取りはしていたようだが、なにしろシングルで仕事をしながらの心労なのでその緊張感は計り知れないものだったろう。

私は遠くに居てなにもしてはやれなかったが、せめて心の支えにはなると思い、寄こすメールには主に子供の不安を取り除く親の対応を伝え続けた。藁をもすがる思いで私にメールを寄こすのだから、私も気持ちを引き締めて経験知を話したり、共感してやったり、私自身も内心は辛くてたまらなかったけれどしっかりした母親の態度は崩さなかった。

娘は次第に落ち着いたというか、諦めの気持ちで仕事に邁進していたようだ。
私は食欲が無い日がつづき、先き行きの希望もない自分の年齢のこともあって、誰と話してもその場限りの気持ちになっていた。
朝が来て、一日が過ぎ、亦夜がくる、同じことを繰り返して暮らしていることを感謝しようとの思いを胸に刻んで過ごす日々だった。


丁度その年の夏の始めあたりに、時々話ができる近所のおひとりさまが家を払って娘の所に行きたいと言ってきた。半信半疑で聞いていたその話が現実になったのは夏が過ぎ秋の半ばのことであった。

作品名:愛情 作家名:笹峰霧子