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人生×リキュール シャンボール

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「あの、それは、自殺をほのめかすような、その、例えば、死ねとかって声じゃないですか?」
「だったら、なんだって言うんですか?」私に睨みつけられたトンボさんは、いえそのと縮こまる。
「その、なんだというのではないのですが・・・あの、その、もう一杯だけ、付き合ってもらえませんか?」
「結構です。帰ります」踵を返した私をトンボさんは引き止めなかったが、代わりにポツリと零した。
「その、おじいさんが言っていました。人生を許せる一本を、と」
 振り返った私が見たものは、侘し気な眼差しを月に向ける猫背のトンボさんの姿だった。

 車が高速で行き交う曇天の下に伸びる陰気な関越道。
 いつもの夢だ。
 私は、うっかり眠ってしまったようだ。
 きっと昨夜、シャンボールを飲んだからだ。それとも大量に服用した薬のせいかな。どっちでもいいや。
 私は、陸橋から関越道路を見下ろしている。
 道路の一カ所がぼやけ始める。
 あそこは、事故現場だ。母の運転する軽が事故った現場。そう。青いビニールに囲まれた母の軽。
 発煙筒の赤い光が見える。
 卵焼きの欠片が転がっていて。
 私と結婚のことで口喧嘩した母が、仲直りをしようとして作った私の好物。衝突の際に散乱し、無惨に踏み潰された母の愛情。私への愛情が籠った黄色い滲み。その滲みが道路に水玉模様を作っていく。
 鮮血に染まっていく道路。手招きするように蠢いている。
 ・・・ごめんなさい、お母さん。
 私と喧嘩なんてしなければ、最近目に自信がないと言って疎遠になっていた車を運転して、少しでも早く着くためにと関越に乗る必要なんてなかった。私のせいだ。
 私のせいで、お母さんは。お母さんじゃなくなってしまったんだ。
 私のせいだ。私なんて死ねばいい。
 私が、お母さんの代わりに死ねばよかったのに。私だけ生き残っていて。こんなどうしようもない私ばかり、人間の体を保っていて。
 ごめんなさい、お母さん。
 私なんて死ねばいい。
 ごめんなさい。
 死にたい。死にたい。私なんて死ねばいいのに。
 ・・・ごめんなさい。
 スカートがふわっと広がり、体が宙に舞う。
「だだだだっだだっだっだっだっだだめだめだあぁあああぁぁーーー!」
 大声が耳元で鳴り響いて、私の体は陸橋の手摺に叩き付けられた。
 誰かが泣きじゃくりながら私を強く抱え込んでいる。そのあまりに強い力は、まるで隙間に挟まっている時のような感覚を私に思い起こさせた。
 目を閉じた私の耳に、先日試し聞きしたSheryl Clowの「A Change Would Do You Good」に酷似したリズムが聞こえてきた。




 ※シャンボール
 丸いボディに巻かれたゴールドの飾り帯と、王冠をモチーフにしたキャップ。そんな豪華な見た目に引けを取らない華やかな起源を持つベリー系リキュールである。十七世紀のフランス。ロワール地方にあるユネスコの世界遺産にもなっている名城の一つ「フランスの庭」と呼ばれるシャンボール城に宮廷をおいていたルイ十四世が、集まる貴族達にラズベリーなどを漬け込んだ自家製果実酒を振る舞っていたという逸話がシャンボールリキュールの起源と言われる。ブラックベリーとラズベリーの二種類のベリーと高級酒でもあるコニャック(ブランデー)をベースに、ハーブやスパイス、蜂蜜などを加えたラズベリー風味が支配的な果実の凝縮感溢れる濃厚かつ深みのある風味と甘味を持つ品格あるリキュール。
 そんな格調高いシャンボールの飲み方は、シャンパンと合わせたルビーのような華やかな輝きが特徴の「シャンボール・ロワイヤル」を始め、炭酸水と割る「シャンボール・フィズ」やクランベリージュースを加えた「シャンボール・クランベリー」などお酒に弱い人でも気軽に楽しめる。いずれも美しいルビーのような赤い色が際立つカクテルだ。アイスにかければ、品のいい乙なデザートに早変わり。コース料理の〆も飾れるだろう。