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空墓所から

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 それから、長い年月が経過した。

 優一は、未だに定期的に高架下に通い詰めている。
 小学校、中学校を卒業し、高校も卒業し、市内の工場に就職し、同僚とのトラブルで6年後、そこを解雇処分にされ、数年のニート生活を経て、どうにか派遣で再び工場のライン作業にありつき、派遣先で伏し目がちに働いている今でも。
 父は数年前、脳卒中で亡くなった。老いた母もパートにこそ出ているが、ぼやくように頻繁に体の不調を訴えている。

 優一は小学3年生以降、相変わらず時間を見つけるとこの高架下にやってくる。少年野球チームでレギュラーを取ることができず、中学の野球部でも3年間、球拾いに終止し、高校では野球部に入ることすら止めてしまったけれども、この場所に来ることだけは決して止めることはなかった。最近は仕事に追われ体力的にもきつく、なかなか休み自体が取れない。仕事先でも、影でこどおじとやゆされる始末。それに、結婚や家庭を持つあてもない。父は亡くなり、母の稼ぎだけでは心もとない状況。自分が大黒柱にならなければというプレッシャー。やがて来るであろう母の介護という問題にも、立ち向かっていかなければならないという現実。

 そんな八方塞がりの状況。それでも、優一はこの高架下に立つ。すでに当時の面影はほとんどなく、腹は突き出て、髪にも白いものが混じり始めている。

 それでも、それでも優一は、その不格好な体躯でボールを壁に投げる。そして跳ね返ったボールを素早くさばき続ける。かつてのあの頃のように、自分の好きなことを、好きなように。空が暗くなるまでその場に君臨し続ける。

 ここでは、俺は王なんだ。その強い自負を心に抱き続けて。


作品名:空墓所から 作家名:六色塔