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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG GUN番外 ある老人

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 黒っぽいスーツに包まれた小さな体は少し身を丸めていることもありなお小さく見えた。両手には例のカバンを抱えていた。よほど大事な物なのだろうか、胸にしっかりと抱きしめていた。
 この間の穏やかな表情とは打って変わって深刻な顔色に俺も気持ちを引き締めた。
 狭い室内にはマスターが気を利かせて淹れてくれたコーヒーの香りが漂っている。緊張をほぐすために一杯のコーヒーは最適だが、それは飲まなくていいですよ、まずいから。
「今日は何か?」
 孫娘をよろしくお願いしますと言われても辞さないほどの男前の声で話しかける。
 おじいさんはコーヒーを一口含み喉を湿らせると語りだした。
「実は私、余命2か月と宣告されているんです」
 衝撃の告白。まさか、本当に孫娘な話か?!
「孫はそれを知っていて先日会ってくれたんだと思います」
 たしかにあいつはそういうところに気が利く。3つも年下だが俺よりずっと大人な対応をするときがありぞっとさえする事もある。
「孫からあなたの話は聞いています。なんでも依頼人のためなら多少手荒な真似もしていただけると」
 俺は手を上げて一端話を遮った。
「待ってください、つまり俺に仕事の依頼ということですか?」
 おじいさんはうなずいた。俺は一瞬思考してつづける。
「俺はあなたの事を詳しくは存じませんが一角の方とお見受けします。お顔も広いでしょう。俺でなければならないんですか?」
 おじいさんは俺の問いに深くうなずいた。
「あなたが信頼できるお人柄なのは先日確信しました。それにこの事は仕事や親しく付き合った方々には頼めないのです。どうか、お願いします」
 訳あり…… ということか。俺の客には多い。
「わかりました。絶対に内密にします。ただし、あなたも俺に依頼したことは秘密にしてください。ここのマスターは俺の仲間です。ご心配なさらず」
 おじいさんは大きく息を吸うとゆっくり「仕事」の内容を語り始めた。

 1か月と待たずおじいさんは亡くなった。
 俺は即座に行動に入った。
 おじいさんが入院していた病院の入口が見える場所にワンボックス車を止め中で準備を開始する。
 1mくらいの大きさのアルミケースを開ける。
 中身はH&K MP5 SD6、愛用の高性能サブマシンガンだ。サブマシンガンとは拳銃弾を使用するマシンガンだ。普通は至近距離から弾丸をばらまき一瞬で相手を制圧するために使う銃で、軽く扱いやすく安価に作られている。だがこいつは違う。これは元々軍隊が使用するアサルトライフル、突撃銃を中核にパーツ交換でヘビー、ライトマシンガン、狙撃銃そしてサブマシンガンにもなるシステム銃だ。
 つまりこいつは弾丸をばらまくだけのサブマシンガンというより高い精度を持った拳銃弾を使う突撃銃と言えるだろう。
 俺はMP5を手に取り一度構えて病院の入り口を狙ってみる。
 距離は70m。俺なら拳銃でも当てられる距離だ。事前に取り付け照準も合わせておいたスコープサイトからの見え方を確認し銃を下ろす。
 ボルトを引き、戻さずセフティラッチに引っ掛けて止めた。短めの20連マガジンを装着する。弾丸はフルメタルジャケット消音用の亜音速弱装弾。これで準備は完了だ。
 俺は時を待った。
 数十分後ターゲットは現れた。3人並び男たちが病院の出入り口から現れた。全員が荷物を持っている。最後尾の男はおじいさんが後生大事に手放さなかったあの鞄を持っていた。
 俺は機械仕掛けの人形のように素早く動いた。
 銃を肩の高さまで上げながらセフティラッチのボルトを叩く。ボルトはラッチから外れマガジン内の弾丸を咥え込み前進し薬室に装填した。同時に右手の親指はセフティ兼セレクターレバーを動かしセミオート(単発)に合わせる。
 スコープを覗き込む。右目はスコープ内を左目はターゲット周辺を監視する。
 最後尾の男に照準を合わせる。一行は荷物を運ぶため駐車場に向かうのだろう。チャンスは今だけだ。
 スコープ内に男の上半身が映し出されている。中央の赤いドットをターゲットに合わせる。
 大きく息を吸い、吐く。
 俺は引き金を絞った。小さな反動と激発音を残して弾頭は飛翔しターゲットに命中した。
 MP5のSD6タイプは非常に優れたサイレンサー消音器が装着されている。この距離なら連中には発射音は聞こえず俺の位置もわからないだろう。
 最後尾の男は悲鳴を上げ尻もちをついた。持っていた鞄は投げ出され2,3度地面を跳ねて止まった。
 俺はセレクターを3発バーストに合わせて再度引き金を引いた。一度の引き金で3発の弾丸が発射されるモードだ。
 命中、ターゲットが弾む。念のためもう一射。これも全弾命中した。
 撤収だ。MP5のマガジンを抜きボルトを引いて薬室内の弾丸を捨ててからケースに戻す。運転席に移動するとゆっくりと車を発進させた。
 病院の前は大騒ぎになっていた。すまんな、これが俺の仕事なんだ。
 病院の前の通りに出て、あえて店とは逆の国道側へ車を進めた。追ってくる者は誰もいない。
 俺は車内からあの世にいる依頼人に報告を入れた。
 任務完了です。やすらかに。

 数日後ジュンが俺の店に来て愚痴をこぼしまくった。
「ひどいでしょ? なんの恨みがあって亡くなった人の大切な物壊す? 」
 先日の病院前での出来事だ。入院中亡くなった人の荷物を運び出していた時、何者かに銃撃され形見の品物が破損したそうだ。
「人に怪我は?」
「一人しりもちついて痣ができたそうよ。腰抜かしちゃってしばらく立てなかったって」
 それはお気の毒に。
「ケガ人が出なかったなら、よかったじゃないか」
 するとジュンはキッと眉を吊り上げ突っかかってきた。話に親身に乗ってこない俺に矛先を変えたか。とんだ藪蛇だ。いや藪蛇でもないか。
「よくないわよ! おじいちゃんが大事にしてたパソコン壊れちゃったんだから! 仕事でもプライベートでもずっと手放さなくて…… きっと大事なデータ入ってたんだわ」
「ふむ、お前の写真とかも入ってたらよかったな」
 そういうとジュンは「うん」とうなずくと大人しくなった。しまった、おじいさんを亡くしてこいつもショックのはずだよな。デリカシーにかけたか。
「誰も中を見たことなかったのよ、何が入ってたか見たかったな」
 俺は内心苦笑いした。
「大事な家族の写真が入ってたでいいじゃないか。亡くなった人の日記盗み見るような真似すんなよ」
 するとジュンは俺を振り返り大きな緑色の瞳で心の中を探るように首を傾けてから言った。
「うん…… そうだね」
 これで完全に一件落着だ。
 俺はあの依頼の時を思い出していた。

「男と見込んでお願いします。私が死んだら即座に、理由は何も聞かずこのパソコンを破壊してください! これを残しては死んでも死に切れません!」
 それが依頼だった。
 通常なら必ず理由を聞くのだが今回は二つ返事で引き受けた。
 俺だって死んだら俺の部屋のパソコンどころか部屋ごと焼却処分してほしい。
 そろそろ誰かに頼んでおくか……
 俺にそんなことを頼めるやつ、いるかな?

END