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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG GUN番外 ある老人

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ある土曜日俺は駅の北口に来ていた。
 北口は商業エリアであり左へ進めば商店街、まっすぐ北へ進めば我らが心の故郷Dクマがそびえたっている。
 何? Dクマを知らない? よその人か。Dクマとはなんでも安く売っているデパートだ。東側半分が4階建て、西側半分が2階建てという大した規模の建物ではないのだが困ったことに多くの市民が未だにDクマをこの国最大のデパートと信じている。田舎町にはありがちな微笑ましい事象だ。
 Dクマでなんとなくウインドショッピングを楽しむというのは、この街の市民のありふれた休日の過ごし方だ。かくいう俺も先日ジュンから「週末Dクマ行かない?」と誘われたので一人駅前ロータリーに突っ立っているのである。
 俺は若干16歳ながら便利屋の社長を営んでいる。物騒な世の中なのでもめごと解決が主な仕事だ。
 社員わずか3人の零細企業とはいえ俺は社会人だ。
 それゆえ時間には正確だ。約束の時間の30分以上前からここで待っている。
 楽しみすぎて早く来てしまったわけではない。念のため。
 今更だがふと疑問に思った。ここから数10mの所に俺もジュンもなじみの喫茶店「早安」がある。
 いかにあそこがインスタントコーヒー並みの激マズコーヒーを出す店だといっても、あそこで待ち合わせればよかったんじゃね?
 なんかさっきから立ち尽くしている俺をチラチラ見てクスクス笑いながら通り過ぎていくおねー様方の視線が痛いんですけど。
 やつら大方俺がデートすっぽかされた悲しい男とみているに違いない。
 畜生もう少しそこに居やがれ。ジュンが来たら腰抜かすぞ。
 ジュンはこの街の有名私立校ピース学園の中等部に通う女の子だ。
 俺はまだそれほど長い人生を送ってきたわけではないが、それなりに多くの人間には会ってきた。しかしジュン以上の美少女には出会ったことはない。
 ジュンはアングロサクソンでありながら背は150もなく童顔なため一見小学生に見える。だがスタイルは下手な高校生以上だし、ややウエーブのかかったブロンドのロングヘアも見事だ。さらに整った顔に輝く大きな瞳はなんとエメラルドグリーンだ。
 稚拙な表現だがまるでお人形のような外観で俺の前に現れ、時には年相応の無邪気な少女のようにふるまい、時には生意気なお嬢様になり、そして時にはセクシーな小悪魔な表情を見せる。
 そういう不思議な娘だ。
「すみません」
 突然呼ばれて振り返ると、そこには金髪の美少女はいなかった。
 そこには背の低い老人男性が立っていた。
 派手ではないが仕立てのよさそうなグレーのスーツを着込んだ品のあるご老人だった。ハンチング帽からこぼれている髪は色あせているが若い頃は金髪だったんではないかな。
 俺が「はい」と返事をすると老人はポケットからメモを取り出すと道を聞いてきた。
「孫に会いにやってきたのですが道がよくわかりません。このお店は近くでしょうか」
 メモを見せてもらうと近くの店だった。ちょっと裏道に入ったところにあるので確かにわかりにくいだろう。
 時計の針はまだ約束の時間には間があることを告げていた。俺は軽く答えた。
「すぐそこですよ。ちょっとわかりにくいかもしれませんから案内しましょう」
 老人の顔がパッと明るくなった。
「よろしいんですか? 助かります」
 俺は気になさらず、などと余所行きの声で語り歩き出した。
 老人はA4サイズくらいの鞄をちょっと重そうに持っていた。多分ノートPCでも入っているのだろう。
 持ちましょうか? と声をかけたが丁寧に辞退された。
 正しい選択だ。この街は周辺よりは治安がいい。とはいえ悪い奴が全くいない楽園でもけしてない。
 だからこそもめごと解決のプロである俺達が食いっぱぐれないと言える。
 いい人ぶった若造に荷物なんか渡したらあっという間に持っていかれてしまう。
 ただの温和な老人というだけでなく、しっかりしたところもあるようだ。
 目的地の店には数分で着いた。ロータリーから脇道へそれたY字路の角にそこはあった。
 まるで数十年前から時間が止まったような大衆食堂だった。店の前のガラスの中にはラーメンやチャーハンの食品サンプルが、やや変色して置いてある。建物のたたずまいも恐らく店内も前時代そのままなのだろう。
 朝の連ドラで過去の食堂風景を撮りたかったらここでロケするのがおすすめだ。
 しかしと思った。違和感を感じた。この老人がこんな古ぼけた店に入るだろうか。年齢的にはベストマッチだが小綺麗なこの人には似合わない気がする。孫に会うと言っていたな。孫が選んだのか? そのはずだ。この人はこの店を知らなかったのだから。しかしこの人の孫ならまだ若いはずだ。おかしいな。などと考えていると老人は俺に礼を言ってくれた。
「いや本当にご親切にありがとうございました」
 深々と何度も頭を下げる老人に俺は「いえいえ」と手を振り駅前に戻ろうとした。
 しかし老人は礼がしたいといって店に一緒に入るようにすすめてきた。
「いえ、人に会う用事がありますので」
 と、辞退すると老人は妙なことを言った。
「その用事なら中で済みますよ」
 全身に緊張が走った。
 どういうことだ。この人は俺が誰か知っているのか。俺が何故あそこにいたのかも知っているのか?
 待て、電話で誘ってきたのは本当にジュンだったか? 俺をはめるための罠だったのか?
 この老人からは何も殺気は感じない。しかし俺は職業柄恨みを買うことも少なくない。用心するに越したことはない。
 俺はともかく老人の動きに注意しながら店の引き戸を開いた。
「あ、ほら来た!」
 店内から聞きなれた声がした。予想通りのタイムスリップしてきたような懐かしい雰囲気の店の奥のテーブルが輝いていた。そこに年配の女性と座っていた金色に輝く少女は俺の顔を見ると、まさに光を放たんばかりの笑顔をたたえた。
「ほら、おじーちゃん言った通りだったでしょ?」
 少女、ジュンは俺の後から入ってきた老人に弾むような声をかけた。
 老人はこの上なく優しく微笑むと何度もうなづいた。
「ああ確かにお前の言った通り親切な方だったよ。安心した」
 そういうと老人は俺に席に座るよう促した。
「試すようなことをしてすまなかったね、私たちはジュンの祖父母です。孫があそこで待っている君に道を尋ねれば必ず連れてきてくれるから試してみろというのでね」
 俺は頭を掻きため息をついてから席に座った。正面のジュンをちょっとにらむとドヤ顔だったかわいらしい顔は一瞬だけちょっとセクシーな笑顔になった。

 それから一週間ほどした後、おじいさんから連絡があった。誰にも、特に妻や孫に内緒であってほしいとのことだった。真剣な声だったので俺は仕事用の声に切り替え待ち合わせ場所を指定した。
 念のためジュンが学校に行っている時間に例の喫茶店「早安」の仕込み部屋を借りた。ここのマスターは元々仕事仲間なので時々客との打ち合わせに来ることがあった。
 店には裏口があり人目につかず入ることができる。俺はそこでおじいさんと合流した。