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「猫」

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男性が運転する自動車の尾灯(テールランプ)を見送る

集合住宅(アパート)の外階段
二階の角部屋(自室)目指し足を踏み出した瞬間、少女は身動(みじろ)いだ

外階段の天辺(てっぺん)
其処(そこ)に座り込む「影」を凝視(ぎょうし)する

「何、してるの?」

然(そ)う問われ
気怠(けだる)そうに立ち上がる「影」 が
気怠(けだる)そうに外階段を靴音鳴らして下(お)りて来る

「お前の母ちゃんから(住所)訊(き)いた」

「影」 事(こと)、少年を前に
直(す)ぐ様(さま)、少女は後悔する

油断していた

自分が置いて来た「過去」から
自分を訪ねて来る「他人」がいるとは思わなかった

兎(と)に角(かく)、油断していた

「全(まった)く連絡を寄越さないお前の近況を教えて欲しい、て」
「僕に快(こころよ)く教えてくれた」

何等(なんら)、非(ひ)はない

若干(じゃっかん)、顎を刳(しゃく)り言い切る少年に
言いたい事があるのか?、ないのか?

言い掛ける少女は
外階段を少年の元へと一気に駆け上がる

取り敢(あ)えず夜更けだ
屋外で普通に会話するだけでも「声」は響く

其(そ)れを言えば鉄骨の外階段に靴音鳴らす「幼馴染」も
一気に駆け上がる少女も甚(はなは)だ近所迷惑だ

集合住宅(アパート)の一室
今にも玄関扉が開(ひら)いて怒鳴られる前に引き上げた方が良い

少女は擦(す)れ違い様(ざま)、相手の腕を掴(つか)み取るや否(いな)や
不本意ながらも自室、玄関 三和土(たたき)へと押し込む

途端、少年が訊(たず)ねた

「彼氏?」

如何(どう)やら少年は
男性の自動車から降りて来た自分を見ていたようだ
然(そ)うして「お休みの口付け」を交わした場面も見ていたようだ

厄介(やっかい)だ
厄介(やっかい)だが其(そ)れ以上に面倒臭い

無言を貫(つらぬ)く背中に
「其方(そちら)が其(そ)の気なら」と、無神経にも少年が続けた

「如何(どう)見ても年上、如何(どう)見ても」

「既婚(きこん)者」

振り向く也(なり)、投げ遣(や)りに吐き捨てる
少女の態度に「けっ」と笑う少年は其(そ)れ以上、何も言わなかった

作品名:「猫」 作家名:七星瓢虫