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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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ここから、少しずつ現在へと話を進めて行きましょう。

初め、僕達の存在は秘匿されていて、実際に僕達は表には出ませんでした。それは、時子が環境に安心出来なかったから。

母から虐待され続ける日々から逃れるため、家出をして母の家を離れ、優しい父と長く暮らしながらも、心の安らぎは少なかった。

でも、二十八歳で夫に出会い、結婚をして、やっと出口がやってきたのです。

僕達の主人格「時子」は、小説家志望で、腕を磨いている最中です。彼女は人に優しく責任感が強い。なので、自分は病気だというのに、少し調子が良くなるとすぐに、“家事は自分でやる”と息巻く癖がありました。

時子の夫はとても良い人で、時子によく尽くしてくれます。時子に代わって家事を全部やっても、「無理しないで休みな」と時子に言い添える余裕まである。

時子が「そんなの申し訳ないよ、自分でやるから」と言っても、夫は、「いいからいいから。具合悪いんでしょ。無理してもっと具合悪くしたら、それを見てる俺だって辛いんだよ」と言ってくれるのです。

それから、時子が落ち込んで、昔母に辛く当たられた時の話などしていると、夫は、昔の事だから知らないながらも、慎重に、時子の問題を理解しようと努めてくれました。

日々、夫は献身的に自分を助けてくれて、自分の過去の悲しみにも寄り添ってくれる。彼女はそれを知って初めて、“もう自分は脅かされないかもしれない”と、解ってくれたようです。


それから彼女は、自由な感情表現が出来るようになった。それが、“別人格の表出”という現象でもあった。


僕達は、時子が押し殺し、自分でも辛くならないように隠した、過去の感情であり、記憶です。

怒りの人格「彰」や、寂しさの人格「悠」、分析を担う僕「五樹」など、様々な感情を、時子は表に出します。ですが、時子自身はその時「眠っている」状態であり、僕達が何をしたか、何を言ったかの記憶はありません。

目が覚めてから、他の人格の話を周囲から聞かされたり、残されたメモを見たりすると、時子はいつも混乱して受け入れられず、泣いて困っていました。でも最近では、少し戸惑いながらも、事態を把握したら後の生活に戻る位の事は、出来るようになりました。

でも、よく表に出て、時子のツイッターアカウントを勝手に使っている僕は、時子にあまり良く思われていないようです。


残念ながら統合は維持出来ず、今はまだ全ての人格を抱え直す強さはなかった。でもそれは、“統合まではまだ出来ない”というだけで、時子はしっかり回復しています。

その事をこれから、日々を綴るように書いていくつもりです。

今回は長々とお付き合い頂き、有難うございました。またお読み頂ければ嬉しいです。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎