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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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八人の住人

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94話 過渡期






こんにちは、五樹です。

この小説に、統合された時子自身は関わりたくないようで、このところずっと統合を保てていた間、更新が出来ませんでした。


僕達は現在、ほとんどの時間を統合して過ごしており、「統合した時子」の許容出来る以上のストレスが掛かった時だけ、僕や他の交代人格が現れる事が出来るように、統合がほどけるようになりました。


人格の統合が出来ても、そこが終わりではありません。その統合している状態を保つためには、許容出来るストレスの範囲を広くする事が必要です。それには、なるべく苦痛を避けて生活を続け、日々の穏やかさ、安心感を感じる事が大事です。そうすると、耐えられる事はひとりでに増えていくそうです。今、時子を担当してくれているカウンセラーは、そう説明してくれました。


今日、統合がほどけたのは、病院の待合室で人目に触れる事が苦痛だからだったようです。統合以前から、僕は病院に来る度に目覚めさせられ、「弱々しい主人格の時子」の代わりに、診察を受けていました。

病院が終わった後に時子が目覚めると、いつも彼女は、今初めて体験した事のように、「もう終わったの!?」と驚いていたものです。


それにしても、今日は暑いですね。僕は暑いのは苦手で、冷房は強めに設定します。統合以前には、僕から時子に交代すると、「なんでこんなに寒い温度に設定するの!」と、よく叱られていました。


僕達各人格は、様々に感じ取る事が違います。でも、その中には、驚くべき事もあります。

食事量や酒量の違いで、僕の思う通りに飲み食いをした後で、時子が具合を悪くした事もありますが、一番びっくりしたのは、体温の違いでした。


時子は非常に低体温で、35.5℃位までしか上がりません。でも、僕は36.1℃位です。

僕が目覚める時は、時子が苦痛から逃れたくて交代する時なので、時子の体は具合が良くない事が多いです。

酷い疲労を抱えていたり、極度の緊張で筋肉が強ばっていたり。それは、僕に交代すれば段々と治まり、解消されます。僕は、そこまで緊張しないし、疲れたら休むし、そもそもそんなに疲労を感じませんから。多分、交代した後に、体温の上昇も起きているのでしょう。

たくさんの事が違うのだなとは思っていましたが、まさか体温まで変わるとは思いませんでした。でも、解離性同一性障害の症状を説明するウェブページにも、「身体面でも思いもよらぬ違いがある」と書いてあるのを読みました。


ところで、僕は、この間久しぶりに統合がほどけた時、「たまにはよかろう」とお酒を飲んでしまいました。でも、「飲む量が多すぎるよ!」と時子の夫に叱られ、「今後一切の飲酒を禁じる」と言い渡されてしまいました。

時子を守るため仕方ないとはいえ、禁酒、外出禁止、買い物禁止では、なかなか暇を潰すのは骨が折れます。でも、よく休んで、カウンセリング代や医療費もしっかり残しておくためには、そうするしかありません。

たまさかにはこうやって、文章を書いて流れていく時もあるのでしょう。


多分、病院が終わればまた統合がされ、僕の記憶と性質は「弱々しい主人格の時子」に吸収されるのでしょう。

統合された時子は、「強い子だ」とよく言われます。

他人の意見に流されず、臆する事はなく、だからといって無鉄砲ではない。統合した時子は、周囲の人からそう見られています。

でも、彼女もそこまで耐えられる事は多くなく、ストレス過多なのは変わりません。統合した時子は、その身に掛かるストレスのため、食事がとても少なくなってしまい、現在、少しずつですが、体重に減少が見られます。

僕が見るに、統合した時子は、ストレスを無視して生活の活動を行う事をしていません。でも、統合前の「弱々しい主人格の時子」は、苦痛を無視して努力を優先させる癖があった。そこが一番違うと思います。

僕達は今、過渡期にあり、その内に統合が定着する頃には、時子はもっと穏やかな生活を得て、自分の力を発揮出来る場所も増えているでしょう。


今日もお読み下さいまして、有難うございました。また思い出した時にでも、読みに来て頂けると嬉しいです。それでは、また。




作品名:八人の住人 作家名:桐生甘太郎