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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(41)~(50)

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第四十八話 利助






おりんは今年で、十六になった。

秋夫も真面目に働いてくれるようになって、次郎と八百屋をしている。仲間内みんなが真面目になったわけじゃなくて、何人かとは袂を別ったと言っていたけど、とにかくうちの暮らしはやっと元に戻った。

おりんは今、美しさの最中だというのに、繕い物をしたり、手内職をしたりと、うちに籠ってばかりだ。

もちろん父親の俺としては、変な虫がついて、そっちに掛かり切りになられるよりはいい。でも、あんまり家の中で閉じこもっていては、病気になりやしないかと、不安だった。だからたまにおりんを、煙草屋や豆腐屋へ使いにやる事があった。



「あ、煙草が切れちまった。おりん。お前、刻みの葉を買ってきて、それから羅宇屋がどっかに居るだろうから、とっつかまえて煙管の掃除をしてもらってきてくれないか」

「あいよ、おとっつぁん」

おりんは綿を詰めた袷を縫い合わせていた所から、顔を上げる。

俺を見るのに見開いた目がぴかっときらめいた。それは、初めて見たら驚くくらい、大きな目だろう。

鼻の頭も、頬の膨らみも、男ならみんながむしゃぶりつきたくなるくらい、透き通るように光っている。鼻や唇は少し尖っていたけど、それが「おやっ?」と印象に残るのだ。

「んじゃ、行ってくるよ」

そう言って俺に笑い、目を細めた所は、おかねに似てお狐様のようだった。

おりんはおかねによく似て美しく育ってくれたけど、いつも恥ずかしがって顔を伏せてばかりだ。それに、おかねは念入りにお化粧をしたり、綺麗な着物で自分を引き立てるのを嬉しがるけど、おりんはうちの仕事に夢中になって、自分がどんなに美しいかなんて、てんで気にしない。


何も艶やかな着物なんて着なくたって、おりんは誰がどう見ても美しい少女に育った。大家さんはこの間、「おりんは綺麗になったなぁ、出世が出来るくらいだよ」なんて、冗談めかして言っていた。

「出世」というのは、江戸城奥の“大奥”の話だろうけど、俺達夫婦はそんなの堪ったもんじゃない。

なろうことなら、真面目で優しく、おりんをいつも可愛がってくれる亭主と、思い合った上で一緒にさせてやりたい。それは俺もおかねも同意見だった。

この時代なら、“なるべく裕福な家へ”とか、そういった見方もあっただろう。でも、自分達夫婦が“くっつきあい”だったし、それで幸せになった。

俺達は、「好きな奴と一緒にさせたいさね、木偶の坊じゃ話にならないけど」、「そうだなぁ、真面目ならなぁ」と言い合っていた。



「ただいま」

「おうお帰り。掃除はしてもらえたか?ありがとう」

俺はおりんから煙管を受け取って、前に置いてもらった刻みの包みから、一口分を摘まんで煙管に詰めた。火鉢へ屈もうとすると、おりんはこんな事を言った。

「掃除、してもらえたよ。そん時、煙草屋の人とね、世間話して…」

俺はびっくりして顔を上げた。おりんが外で人と話したなんて、自分から言ったのは初めてだったからだ。

「そうか、何を話したんだ?」

「何も…昨日、雨だったから、店の前で、犬の糞の掃除大変だった、って言ってただけさ…」

そう言っておりんは、何も無かったようにまた元の所に座り、綿を押し込みながら袷を繕っていた。