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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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元禄浪漫紀行(41)~(50)

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第四十一話 秋夫






俺達夫婦は、江戸に住む者としての子育てをした。

秋夫とおりんは、長屋じゅうから可愛がられて育ち、外へ出れば往来の大人から挨拶やらお叱りやらを頂戴して、おりんの躾はいつもおかねが、秋夫に言い聞かせるのはいつしか俺の役目になっていた。

でも、秋夫は大した奴だった。


ここからの話は、子供達について語る事にする。



「秋夫!お前、二日もどこに行ってたんだ!」

二日ぶりに、秋夫が家に戻ってきた。二日前、おかねは「羽織がない、羽織がない」と探していた。

秋夫は、俺が叱ろうとしているのを大して気にしている風でもなく、何気なくこう言った。

「ちょっと買い物さぁ」

「買い物?どこまで買い物に行ったってんだ!」

俺が真面目にそう聞くのがおかしかったらしく、秋夫は大人のように呆れ笑いをする。まだ十七なのに。

「嫌だぜ親父は。冗談が通じやしねぇ」

「何を買ったんだ!言え!」

「ヘッ。自分の親父に惚気を聞かせるほど野暮なこともねぇ」

俺はそれでやっと、秋夫が女郎買いに行ったのが分かり、また家を出て行こうとした秋夫の腕を掴んだ。そして、こう問いただす。

「お前…母ちゃんの羽織をどうした」

そう聞いたのに、秋夫は悪い事をしたなんて、毛ほども思っていない顔で、俺の腕を振りほどいた。

「今度倍にして返ぇしてやるよ」

そのまま秋夫は戸口から消えてしまい、家の中には、おりんと俺だけが残った。

おりんはすべてを聞いていたけど、決して口を出さず、心配そうに俺を見ていた。だから俺は、「お前は心配するな」と言った。それでもおりんはもじもじと両手を揉んで、何かに急き立てられているような顔をしていた。



おかねも俺も稼ぎは変わらないのに、前より暮らしが悪くなった。

鰯が食べられれば大変なご馳走で、普段にはたくあんと米だけを食べた。味噌にも手が届かない。そんな生活だった。

それと言うのも、俺達が貯めた銭はみんな秋夫が遊びに使ってしまい、咎めても秋夫は反発して家を出て行ってしまって、何日も帰らなかった。

おりんは五つ六つの頃だったけど、満足に食べられない事で病気がちになり、俺達はおりんに着物を買ってやることも出来なかった。いつもおりんはすってんてんの古い着物に包まっていた。


おりんは、家の心配ばかりして、自分の欲しい物を我慢していた。

お菓子も、着物も、風車だって欲しがらなかった。

秋夫はほとんど家に居ないので、家族で寺社参詣に行く時は、おりんと俺とおかねだけだった。そういう時、おりんはいつも賽銭箱の前からなかなか離れず、熱心に何かを祈っていた。

俺達夫婦はもちろんおりんを大事に思ったけど、それは秋夫にだって同じだった。

まだ小さいというのに、すっかり江戸の男の遊びに慣れた秋夫が、まともに暮らしていけるのか、それをいつも二人で話し合っていた。

本当に小さい頃なら、秋夫は俺達夫婦に叱られて渋々いたずらをやめてくれたけど、もうそんなのは通じなくなっていた。賭け事だの女郎買いだのに夢中になって、秋夫は家に寄り付かない。

秋のある夕暮れ、俺は大家さんに相談をしに行った。