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『11』は二人のラッキーナンバー ~掌編集 今月のイラスト~

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(ちぇっ、やっぱり来るんじゃなかったよ……)
 合コンに参加したのは良いが、女の子たちはお愛想程度に話しかけてくれるだけで俺のことはほとんど放置プレイ。
 後悔しながら氷が入ったグラスからポッキーを一本引き抜くとカリッとかじり、氷が溶けてすっかり薄くなった水割りのグラスを傾けた。
 こうなったらもう飲むっきゃない……東北出身で大柄な俺は酒には強い、誰も俺のグラスを気にかけてくれないならストレートでもいいや、と自分でウイスキーのボトルに手を伸ばすと、横から細くて白い指がすっと現れた。
「水割りで良いですか?」
「え? ああ、うん、お願いするよ」
 きれいな指の持ち主を見ると、薄紫のワンピースをまとった、目がぱっちりと大きくて色白、清楚な感じの娘が微笑みかけてくれていた。
(あれ? こんな娘いたっけ?)
 もし最初からいたのなら気が付かないはずはない、ストライクどころかど真ん中の絶好球なのに……。
 彼女に水割りを作ってもらっている間、俺は合コンのメンバーを見渡した。
 彼女を除いて10人いる。
 確か5対5の合コンだったはず、だったらこの娘は? 遅れて来たのだろうか……。
 俺の故郷には『座敷童』なんて伝承もあるけど……。
 
▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

「剛、今夜ヒマ?」
 今日の昼、学食で飯を食っていると同期の悟に声を掛けられた。
「ああ、今日はバイトもないしヒマだけど?」
 俺は大学4年、もう就職先も決まっているし卒業単位も足りている、あとは卒論を提出すればOK、それもほぼ出来上がっていて、今日は担当教授のチェックを受けに来たのだが『良くできてるよ、気になるとすれば……』と細かい点を2~3アドバイスされただけ、バイトさえなければアパートに戻ってもネットかゲームくらいしかやることはない。
「〇〇女子大と合コンするんだけどさ、隆二のやつが風邪ひいたとかで来れなくなったんだ、代わりに来ないか?」
「ふ~ん、まあ、いいよ」
「じゃ、5時半に○○駅の改札な」
「わかった、行くよ」
「じゃ、夕方な」
 悟は二本指をこめかみのあたりに当ててピッとピースサインを出すようなしぐさを見せた、ちょっと軽薄でキザっぽい仕草だが、横浜生まれ、横浜育ちの悟がやると様になる、俺がやっても全然似合わないが……。
 俺はかなり大柄でずんぐりした体型、中・高と柔道部だったし、小学生の頃は町内の『ちびっこ横綱』だった、じいちゃんばあちゃん達からは『立派な身体してるねぇ』と目を細められるがイマドキの若い娘にはウケが良くない、髪を伸ばしてみたこともあるのだが、鏡を見るにつけ恥ずかしくなるほど似合わないので結局はスポーツ刈り、高校まではもっと短い丸刈りだった。
 その上、自分では標準語を喋っているつもりなのだが、イントネーションで東北出身とバレてしまうらしい。
 別に女の子たちから嫌われるようなことはない、『おっきいね』とか『頼もしい感じ』とか言われるものの、恋愛対象とはなりにくいみたいだ。
 まあでも男どもにはウケが良い、クソまじめが身上で授業にはきちんきちんと出ているから試験前ともなればノートをコピーさせてくれと言うヤツが寄って来るし、遊びにもよく誘われる、おかげでそれなりに楽しい学生時代ではあったが……。

 今日のメンバーはと言えば悟を筆頭に都会育ちのスマートでオシャレな感じのやつばかり、飲み始めたばかりの頃は女の子たちもあれこれ話しかけてくれたのだが、少し酔いが回ってくる頃には俺はなんとなくポツンとなってしまっていた、グラスの氷が溶けてなくなりかけていても気が付かれないくらいに。

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

「東北ですか?」
 薄紫の彼女にそう訊かれた、やっぱりイントネーションでわかるらしい。
 まあ、俺がモテないのはそれを気にしてあまりしゃべらないせいもあるのだが……。
「私も東北なんです、岩手の陸前高田市」
「へえ、俺も陸前高田だよ、奇遇だね……でも訛りないね」
「8歳の時から東京でしたから」
「そうなんだ……」
 11年前、あの大津波で家を流されてしまった人は多い、そのせいで故郷を離れざるを得なかった人も。
 俺は元々口数が多い方ではないのだが、薄紫の彼女が親し気に話しかけてくれるし、同郷とわかってイントネーションも気にならなくなり口数も増えた。
「今日、何の日か知ってますか?」
「ええと……ああ、『ポッキーの日』か」
 彼女が両手にポッキーを持って立てる仕草をして見せたので気が付いた。
「当たり! でもあたしたち東北の人間にとっては、月こそ違っても11日って別の意味ありますよね」
「そうだね、2011年のことでもあったしね」
「怖かったですよねぇ」
「うん、俺、津波って特大の波がザッパーンと来て海岸近くを浚って行くもんだと思ってたけど……」
「街を根こそぎ攫って行くくらいの濁流でしたものね……自然の巨大な力の前では人間は無力ですよね……私はまだ8歳でしたからひたすら怖くて足がすくみました」
「俺は11歳だったかな……海が大きく引いて行くのを見てさ、これはただ事じゃないなって思ったけど、実際に海が迫って来ると恐ろしかったよ」
「あの時、小学校の先生に引率されて高台へ逃げたんです」
「俺もそうだったな」
「でも私、逃げる途中で転んで足をくじいちゃって……」
「ホント? それは大変だったね」
「引率の先生は気づいてくれなかったし、友達が助け起こしてくれて何とか走り出したんですけど、すぐに足が痛くて痛くてうずくまっちゃったんです、友達はどんどん先へ行っちゃうし、私、ここで死んじゃうかもって思いました」
「それで?」
「そしたら後ろから来た上級生で身体の大きい人が『俺におぶされ!』って言ってくれて」
「……」
「それで避難所までたどり着けて助かったんです、あのままうずくまってたら、何とか立ち上がって歩き始めてたとしても間に合わないで津波に攫われてました……もしかして〇〇小学校じゃなかったですか?」
「そうだけど……」
「あの日、小さい女の子をおんぶしませんでしたか?」
「……した……」
「やっぱり……」
「君はあの時の?」
「はい、命の恩人ですからずっと探してたんですけど、あの時は学校どころじゃなかったし家も流されちゃったから、あの後すぐこっちの親戚を頼って、父はそのまま東京の本社勤めになってそれからずっとこっちで……」
「俺の家も流されちゃったんだけど、県内の親戚を頼ったんだ」
「小学校へは?」
「高校生の時に行ってみたよ、もう『跡地』になってたけど」
「あの時は本当にありがとうございました」
「いや、俺、身体がでかいのだけが取り柄だったから」
「先輩がおぶってくれてなければ、私今ここにはいません……さっきまで近くのテーブルに居たんですけど、懐かしいイントネーションが聞こえて来て、なんか聞いたような声だなぁって……それで覗いてみたら……先輩、あのころの面影有りますよ」
「そう?」
「スポーツ刈りの若い人ってあんまりいないし」
 彼女はそう言って笑った。
「高校までは丸刈りだったんだけどね、これでも少し伸ばしてるんだぜ」