スペードのクイーン ~掌編集 今月のイラスト~
「お言葉ですが、そういうわけには行きません」
「カメラを止めなさいって言ってるでしょ! あたしに逆らう気?」
「動画データは蓮田先生にお渡しすることになってますので」
「は? 何言ってるの? あんた自分が何を言ってるのかわかってるの? 党首のあたしに逆らってタダで済むと思うの?」
「クビですか?」
「当たり前じゃない!」
「別に構いませんよ、僕は」
「何よ! 開き直る気?」
「僕は蓮田先生と一緒に党を離れるつもりですから」
「え?……」
優妃の顔色が変わると、そのやりとりをニヤニヤしながら聞いていた佳男が口を開いた。
「まあ、そういうことだ……おっと、さっきはちょっと嘘をついた、鈴木さんが誰とも交際していないと言ったが、実はその山田君と結婚前提のお付き合いをしてるんだよ、だから彼女が僕と付き合うなんてことはあり得ないんだ」
「……山田君、あたしを裏切るの?」
「おやおや、人聞きが悪いな、彼は君に言いつけられてカメラを回してただけさ、そうだろ? 山田君」
「ええ、その通りです」
「君はこの世に君臨する女王様にでもなったつもりだったんだろうが、実際はRM党と言う小さな世界のトップに立っただけだ、そしてその党内も君に従う者ばかりではなかったと言う事さ」
「まさか……そんな……あんた、この録画データをどうするつもり?」
「有効活用させてもらうさ、僕はRM党を出てKM党に合流する、鈴木さんや山田君ももちろん一緒にね、それだけじゃない、僕と一緒に移籍したいと言う議員も5人いる」
「そんなことされたら党は……」
「大打撃だろうね、それに代わったばかりの党首も失うことになる」
「え?……あたしが?……」
「不倫を自白した動画があるんだ、マスコミは飛びつくだろうさ」
「何言ってるの! マスコミはあたしの味方よ……」
「まあ、偏向TV局や新聞はそうだろうさ、でも週刊誌はどうだ? ゴシップなら何でも大歓迎だぜ、まして美人党首の不倫疑惑ともなればハイエナよろしく群って来るだろうな」
「……訴えてやる……」
「構わんさ、僕がどんな不法行為を働いた? 留守中の秘書の部屋を借りてプラモデル作りを楽しんでいただけさ、撮影した山田君も君の言いつけ通りに動いただけでね、君が勝手に自爆しただけだ」
「卑怯よ……」
「君がその言葉を口にするとはね、とんだお笑い草だよ」
「陽! カメラを奪ってよ!」
「ははは、それは無理だろう、こっちは元ラガーと柔道の黒帯、そっちは君と優男、勝負にならないと思うがね……飛び掛かって来るなら来ればいい、その姿もカメラに収めるだけだからな」
「……く……よくもあたしをコケにしてくれたわね……」
「自分を過大評価しすぎだ……どうして君がスペードのクイーンと呼ばれるか教えてやろうか、ハーツと言うカードゲームではスペードのクイーンは忌み嫌われる、いわばババなんだよ……そろそろ出て行ってもらおうか、僕と山田君はこれからKM党本部へ出向かなくちゃならないからね……おっと、複製のキーも置いて行ってもらおうか、僕の秘書で山田君の大事な彼女の部屋を荒らされちゃ堪らないからね」
「……憶えてらっしゃい……」
「さあね、最近記憶力が落ちて来てるみたいで、憶えていられるかどうか……そうそう、ババ抜きのヨーロッパルールを知ってるかい?」
「そんなもの、知るもんですか」
「なら教えてやろう、ヨーロッパじゃ同じ数字、同じ色のカードが揃わないと切れないのさ、そしてゲームを始める時にクラブのクイーンを抜いておく、つまりスペードのクイーンは対となるカードがないひとりぼっちのカードなのさ、そしてゲームが終わる時、敗者の手元に残るのはスペードのクイーン……全く上手い綽名をつけたものだと思うね……もっともそれを言い出して広めたのは僕なんだけどね……」
作品名:スペードのクイーン ~掌編集 今月のイラスト~ 作家名:ST