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スペードのクイーン ~掌編集 今月のイラスト~

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「そんな生ぬるいことばっかり言ってるからあんたはウダツが上がらないのよ! 党首はあたしなんだからあんたはあたしの方針に従ってればいいの!」
 蓮田佳男は『ふぅ』と力なくため息をついて肩を落とし、それ以上妻の優妃に意見することを諦めた。
 優妃は生まれながらの女王気質、党内では密かに『スペードのクイーン』と呼ばれている。
 スペードはスペイン語の『spada』から来る、剣を図案化したマーク、そしてスペードのクイーンはいくつかのカードゲームでは特別なカードと見做されている……悪い意味でだ。
 優妃も言い出したら絶対に後へは引かず、言葉の剣で相手を切り裂かないと気が済まない。

 蓮田佳男・52歳、RM党に所属する国会議員だ。
 10年前にはごく短い期間ではあったが佳男が党首でありその間は総理でもあった。
 その3年前、RM党は政府与党の内紛とも呼べるような権力争いと、それに伴う政治の混迷に乗じて政権交代を果たした。
 だが、それまで政府与党の批判に終始していたRM党には政策などと呼べるようなものは皆無、絵に描いた餅よろしく国民に媚びた公約を掲げたものの何一つ実現しなかったばかりではなく、まるで日本の国益を損ね、国力を削ぐことが目的なのでは? と思うような政策ばかりを推し進め、その結果政権与党の座に在った3年で支持率は見る影もないほどにガタ落ち、自ら招いた逆風の中での選挙を余儀なくされた。
 そしてその際党首に担ぎ上げられたのが佳男だった。
 彼はRM党の中では保守寄りで政策通でもあったので、RM党にも政権を維持する能力があるとアピールすることが狙いだったが、吹き荒れる逆風の中で党首になって泥をかぶろうと言う人物がいなかったせいもある、当時の情勢の中では大敗を喫することは目に見えていたので党首=総理となっても選挙結果が出るまでのごく短い期間、大敗の責任を取らされる形で党首の座も追われ、以後浮上することが難しくなるのは目に見えていたからだ。
 それでも佳男が党首を引き受けたのは妻に強く背中を押されたから……と言うより尻に鞭を当てられたと言う方が近いか……。
 3年前の追い風選挙で与党重鎮の刺客として担ぎ出された優妃の武器は、当時まだ25歳と言う若さ、学生時代にミスキャンパスに選ばれた美貌とスタイル、徹底的に相手を批判し貶める言葉の切れ味、持ち合わせているのはそれだけだったが、強い追い風に押し上げられる形で無党派層の支持を集めて初当選していた。
 政治家を目指そうとする人物ならば強い野心を持っているものだが、優妃のそれは持ち前の女王気質とも相まって尋常ではなかった。
 学生時代のウグイス嬢アルバイトから始まり、佳男の事務所勤務、秘書への抜擢を経て、とうとう佳男の妻の座まで手に入れていた。
 佳男としても妻の気質と野心の強さは重々承知していたが、自分の後押しになると考えて優妃と結婚した。
 まあ、容姿と色香に迷わされたと言う面も否定できないが……。

 佳男を党首に掲げて戦った選挙は予想通り、いや予想以上の大敗で、佳男は当然のように党首の座を追われた。
 だが、その時にはもう離党も念頭に置いていて、やや保守寄りの野党から内々の誘いも受けていた。
 佳男がすぐに離党しなかったのは、まだ力のある野党が存在しなかったことに加え、優妃が離党に強く反対したから。
 今は冷や飯を食うことになっていても、元党首、元総理の肩書は利用できる、使えるものを使わない手はない、党のためにと言うより自分のために……優妃はそう考えていたのだ。

 その後の10年、RM党は選挙のたびに党勢を失って行ったが、優妃はそれに反比例するように評価を上げて行った。
 再び『批判するだけ』の政党になっていたが、優妃の容姿と女王気質から来る過激な舌鋒はマスコミ受けし、日に日に存在感を高めて行ったのだ。
 そして昨年の総選挙、党は相変わらず低空飛行を続けていたが、優妃は若干38歳にして党首となったのだ。

 党首にまで登り詰めると、もう佳男に利用価値はない。
 それどころかKM党への移籍も考えているようだ。
 そうなれば彼と行動を共にしそうな議員も2人や3人ではない、ただでさえ党勢が弱まっているところだ、それは大きな痛手になる。
 そうさせないためには……。 

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽
 
 そもそもその頃、優妃は秘書の武藤陽と不倫関係にあった。
 事務所内での噂は力でねじ伏せ、嗅ぎまわるマスコミは裏から手を回して抑え、不倫を疑う夫を高圧的な態度で黙らせてきたが、もはや一回り以上年上の夫への愛情などひとかけらも残っていない、さっさと離婚してしまえば陽と再婚できるし、ぜひともそうしたい。
 党にとってももはや夫は危険分子、政治家として潰してしまえるならば一番被害が小さく済むのだが……。

「旦那さんのことなんけどさぁ」
 遊説先のホテル。
 用意させたスイートルームの特大ベッドの上、糊のきいたシーツに二人で包まってひとしきり楽しんだ後、陽が切り出して来た。
「今はあいつのことなんか喋らないで、加齢臭が漂ってきそうだわ、そんなことよりもう一回……」
「いや……不倫の噂があるんだよ」
「……それ、本当なの?」
 優妃の目がきらりと光った。
「う~ん、噂の域は出ないんだけどね、具体的な証拠とかはないし」
「でも匂うんでしょ? 相手は誰?」
「秘書の鈴木博美……秘書なんだから議員と行動を共にするのは当たり前って言えば当たり前なんだけど……」
「そうとばかりも言えないわよ、地方で遊説の時でも主要な秘書は東京に残ることが多いでしょ?」
「まあ、博美程度の順位だと身の回りの世話に連れ歩くことが多いとは思うけど……」
「あの娘、今何歳だっけ?」
「26……かな、その前後」
「そうなんだ……」
 博美は党事務所内でも『童顔で可愛い』と評判の職員だ、まあ、優妃は『あたしの足元にも及ばない』と考えてはいるが、優妃自身とは真逆の愛嬌がある『お嫁さんにしたいタイプ』であることは認めざるを得ない。
「『身の回りの世話』ね……どこまでお世話しちゃってるんだか」
「妬ける?」
「あたしが? とんでもない、あんな小娘相手にもならないわよ、スタイル悪いし」
 確かに背が高くてスレンダーな優妃と比べると、博美は小柄で少しだけぽっちゃりしたタイプ、だが、そんなタイプを好む男も多いことは知っているし、自分とは真逆なタイプだけに佳男が惹かれてもおかしくないと思う……結婚した当初はともかく、自分も議員になってからはすっかり夜の生活はなくなっていたし、陽と関係を持ってからはもう側にも近づけていない……。
「怪しいわね」
「確かにね、事務所内でも随分と親し気だし」
「少し探ってみてくれる?」
「もちろん……お言いつけとあらばなんなりと」
「もう、そんな言葉遣いしないでよ、あなたの前ではあたしも一人の女なんだから」
 優妃はそう言いながらむき出しになった陽の胸に、自分の胸を押し付けるようにして唇を重ねて行った……。

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