#3 身勝手なコンピューターとドローン
「でもそれなら私だって、あと何年生きられるか分からないじゃないか」
「・・・そんな心配は無用よ。だってあなたは永遠に生きられるのだもの」
「どういうことだ?」
「そろそろ目が見える頃ね」
ドクター・ワンは、目をこすった。そして鋭い眼差しで注意深く辺りを見渡した。
「そうじゃないわよ。あなた自身を見てちょうだい」
ワンは自分の体を見た。
「これは?」
「疑似生体ボディよ」
「緊急医療用の義手や義足。まさか内臓まで?」
「一体分だけあった半永久的に使用可能な人体パーツを、全クルーが最後のあなたに託したのよ」
「人造ボディを私に?」
「つまりあなたはもう、人間ではないの」
その部屋の暗闇から、一人の女性が姿を現した。それを見てもドクター・ワンは、もう驚かなかった。
「君、その体は?」
「クルー全員の細胞で出来ているわ。私にはこの肉体を、新鮮に保ち続ける役目がある」
「なんてことだ。AIの君が肉体を持ち、人間だった私がサイボーグだなんて」
「これまでの経緯から、こうするしかなかったのよ」
「不老不死など、人工的な体では虚しい気もするがね」
「私は人間になれた気がして、なんだか嬉しいの。そしてあなたがクルーの記憶を・・・」
「一体いつになれば、クルーの命を復活出来るんだろうか」
「完璧な設備のあるラボを作り上げるまで、途方もない時間が必要だわね」
「それまで船体がもつだろうか?」
「きっと無理ね。そのかわり人間が住める星を、8光年先に見つけたの。進路を変えれば行けるわ」
「そんな星が見つかっても、本船はもう安全に軌道に入れないだろうし、降り立つのは無理なんじゃ・・・」
「その時はタイミングを逃さず、着陸船で行くことができる」
「着陸用シャトルで本船を離れて、進路を変えるのか?」
「そう。そのタイミングは、今から1週間後に1度だけ。着陸船のエネルギーじゃ、それが唯一のチャンス。その後40年かけて、その星に向かうわよ」
「1週間後?」
「1000年で初めてのチャンスなのよ。必要物資と船の全データを持ち出す準備を始めましょう」
「クルーは、この瞬間を持ち望んできたんだろうな」
「そう、きっと最後のチャンスでもあるわ。皆この時のために、ありとあらゆる技術を磨き、それをあなたの記憶に残したのよ」
「でも着陸シャトルじゃ、クルー全員の体は運び出せないんじゃないか?」
「ええ、到着出来るのは私たちだけ。でもそれで十分」
「君はマザー(母親)として、その体にクルー全員の細胞を保存・・・ 私が君の細胞を医学的に維持していくために、最後に選ばれたということか。しかし着陸船の扱いなんか私には・・・」
「大丈夫よ。あなたに刻み込まれたクルーの記憶が、まるで本能のように機能して・・・」
「ああ、そうだったな。そしてその星で共に新世界を作っていく・・・、まるでその星のアダムとイブみたいじゃないか」
「あなたの記憶を消してしまった理由が分かったかしら? 他のクルーも記憶容量が多すぎたから、今は有用な記憶だけに限定する必要があったの」
「まるで本能で動く働きバチ(ドローン)のような感覚だ。私はワン博士。医者だったが・・・その記憶は役に立つから残されている」
「そうよ。あなたは、Dr.One(ドクター・ワン)」
「つまり、Drone(ドローン)というわけか・・・」
終わり
作品名:#3 身勝手なコンピューターとドローン 作家名:亨利(ヘンリー)