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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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#3 身勝手なコンピューターとドローン

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#3 身勝手なコンピューターとドローン



 真っ暗な深宇宙を
 
 
 
    <■∈ --- - - = = = ≡  ≡   ≡
 
 
 
                  高速飛行する物体がひとつ。


それは静かに慣性航行を続け、何もない空間では止まっているかのようにさえ思える。三次元の空間と言えど、前後左右、上下にも変化は全くなく、時間の経過さえ感じられなければ、四次元的にも静止しているような錯覚を覚えてしまう。

 それが途方もない時間、宇宙をただまっすぐに彷徨う理由は何なのか?

その質問の答えに意味を見出すには、宇宙に対してその船はあまりに小さすぎる。

 西暦2068年に深宇宙探査に出たこの宇宙船には、30人のクルーが乗船していた。彼らは約12光年離れた宙域に見つかった惑星の資源調査を目的とした先発隊として組織されており、その役割は尊大なものだったが、その宇宙旅航には約160年もの歳月が必要とされた。そして数年ごとに後続の宇宙船が派遣され、その惑星で資源開発を行い、人類の新しいコロニー建設が計画されていたのだ。
 しかし、その一番船は目的地には到着しなかった。つまり航路を外れてしまっていたのである。

「・・・ター・ワン。ドクター・ワン。目を覚まして」
 優しく耳元でそう囁かれた気がした。ワン博士は寝たままの姿勢で首を持ち上げ、目を開けようとしたが、なぜか瞼を動かすことが出来ない。かすかに震える口をなんとか開けて、
「う、ううう、ど、どうした・んだ?」
「コールドスリープが終了したのよ」
 コールドスリープ。それは長期間の宇宙旅航には欠かせない手法。人工的な冬眠状態で代謝機能を極限にまで下げ、生命維持を行う技術であり、被験者はほとんど年を取ることなく、虚無な時間をやり過ごせる手段である。
「う〜〜〜〜ん」
 ワンは、休眠キャスケットの中で、ぎこちなく伸びをした。そして起き上がろうともがくと、
「もう暫くは、手足の麻痺や、平衡感覚に違和感が残る場合があるけど気にしないで。まずは水分補給を行い、タブレットで栄養を摂取したほうがいいわ」
ワンにそう促した声は、とても優しそうな女性のものだった。
「君は誰だ?」
「私はマザーよ」
マザーとは、この宇宙船を管理するメイン・コンピューターのことである。
 そばのケースが開くと、その中に補水液の入ったボトルと錠剤が3粒収められていたが、ワンは目を開けられず、手探りでボトルをつかんでそのキャップを口で開けた。
「もう惑星アップルに到着するのか?」
「・・・・・・」
コンピューターの音声は応答しない。
「マザー、どうした?」
「惑星アップルには到着出来なかったわ」
「到着出来なかった? どういうことなんだ?」
ワンはボトルを口に咥えようとしていたが、動きを止めた。
「実は航路から逸れてしまっているの」
「私たちが眠ってる間にか?」
「ええ、そうよ」
「リカバリーしなかったのか!?」
「しようとしたわ。でもそれはもう不可能だったの」
ワンは補水液を一口飲んだ後、ボトルを台に戻して、右手で自分の眉間を押さえた。
「どんなトラブルだったんだ?」
「クルーがスリープ中に、予期しない空間移動物質に遭遇して、本船は進路を変えざるを得なかったの」
「何に遭遇したんだ?」
「判らないわ。超微粒子の雲のようなものが高速でぶつかって来て、船体表面を削り、穴を開けたの」
「特異点か何かなのか?」
「ええ。レーダーやセンサーには全く反応しない未知の物質だったから、異常事態に気付いて、急遽進路を変更したんだけど、サイドスラスターの多くに損傷を負ってしまったの」
 ワンはようやく無理やり目を開けた。
「ドクター・ワン、まだ目の機能が回復していないはずよ。部屋は暗くしてあるけど、何か見える?」
「・・・いいや、まだ全く見えない。それより、船体はエネルギー防壁で守られているんじゃなかったのか?」
「ええ、そのおかげで大破することは免れたわ。でもすぐにその異常事態が突発的な亜空間断層のせいだって分かったから、その断層をジャンプしたの」
「私は医者だから、船の技術的な事はよく解らない、でも、そんな状態でジャンプしたら、ただで済まないんじゃないのか?」
「その通りよ。エネルギーのほとんどは、船体構造維持のために使って、最小限のジャンプにとどめたの、それでももう、元の航路に戻るだけの余裕はなかったわ」
「どれくらい航路を逸れてしまったんだ」
「・・・・・・」
またコンピューターは応答せず、静かになった。
「どうなんだ!? マザー!」
「もう言葉で説明出来るようなズレじゃないの」
「戻れないのか?」
「ええ」
「じゃ、どうして停船しなかったんだ」
「どんなに優しくブレーキをかけても、船体はバラバラになるわ。私たちは今、シャボン玉に乗っているようなものなのよ」
「そのままのスピードで飛び続けるしかなかったというわけか」
 ワンは眉を寄せながら上体を起こして座った。そして手探りで掴めるところを探しながら、足を床に着けようとしたが、思うように体を動かすことが出来ない。
「ドクター・ワン、まだ歩くのは無理だと思うわ」
「コールドスリープの後でも、緊急時にすぐ対処出来るくらいは動けるはずだ」
「通常ならね」
「どういうことだ?」
「眠っている時間が長すぎたのよ」
「・・・どれくらい眠っていたんだ?」
「1021年間なの」
「そんなに・・・他のクルーはどうした?」
「・・・ええ、他の皆は眠っているわ」
「では、どうして私だけ起こしたんだ?」
「ドクターの休眠キャスケットの回路に、フォルト(fault=障害)が出て、スリープ状態を解除するしかなかったの」
「そうか。ありがとう。皆は起こさないのか?」
「クルーに対処不可能なトラブルが発生した場合、航行規約8-13によりスリープは解除しない決まりになっているから」
「しかし、千年もそのままだなんて。この先はどうするつもりなんだ?」
「それをあなたが決定することになるわね」
「どうしてだ?」
「階級があるクルーで、活動しているのがあなただけだからよ」
「じゃ、船長だけでも起こしてくれないか? こういう場合は船長の判断がないと」
「それもいいけど、船長が目を覚ますのは難しいわ。かなりかかるわよ」
「え? まさかスリープ中のバイオリズム管理が出来ていなかったと言うのか?」
「そう。休眠キャスケットに十分なエネルギーを送れなくなったのは、今から900年以上も前のことなの」
「エネルギーが足りなくなってしまったというわけか」
「ええ、事故でプラズマを大量消費してしまって、わずかな望みをかけてスリープを続けたけど、プラズマはゼロになってしまったわ。その後は、原子力バッテリー電源で45年間維持したけど、焼け石に水ね」
「正常な休眠は続けられなかったろうな」
「ええ、船の機能維持に電力を残して、コールドスリープは諦めることにした」
「つまり、クルーを冷凍保存してくれたんだな。仮死状態で・・・それで私の体も言うことを聞かないのか。しかしこのままでは・・・」
「じゃ、どうしたいの?」
「それでも皆を蘇生させよう」
「それはやめた方がいいわ」
「どうしてだ?」