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忘れられない人たち

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その1 女ともだち

 

家族でも友人でも、亡くなった人は忘れられないものだ。
今でも忘れられない友人に他県に住んでいた同級生がいるが、亡くなってもう10年が経った。

中学生のとき隣合わせの席に座ったが、彼女の家は貧しくて学校を休むことが多かった。学校から遠くにある山の上の家から通学していた。私には彼女のことでひとつだけ忘れられない思い出がある。

私が学校を休んでいた翌日登校したとき、彼女は学校を休んでいた。私の席の机の蓋を開けると、野山で摘んだであろう大きな野苺が一杯入れてあった。当時同級生から冷遇されていた私には、おとなしくて目立たなかった彼女は私にとって一番優しい人だった。彼女が私の為に摘んでくれたあの野苺のことは今でも目に浮かぶように残っている。

後に同級会で時々会う機会があり、彼女は見違えるような若々しく美しい女性に成長していた。五十歳を過ぎて、私が孫の世話の為神戸に滞在するようになってからは時々電話をくれた。
彼女の若い頃の話を聞くと、私には想像できないくらい嫁入り先で苦労したようだ。何十年も耐えて次第に義姉妹にも頼られる身となり、二人の娘と孫に囲まれ、家の周辺の人たちにも慕われて幸せな生活を送っていた。
私が電話を掛けると彼女の優しい声と温かい話を聴くことができた。

数年経ち、彼女は肺癌で入院することになったと言ってきた。今はもう電話の向こうの優しい彼女の声を聞くことはできなくなったけれど、彼女のことは忘れられない。





作品名:忘れられない人たち 作家名:笹峰霧子