最後の「夜間院長」だった
会議になると異常に張り切る医者がいる。
ふだんの仕事がよほど面白くないのだろう。
ほかの医者を貶して、自分の意見を無理やり押しとおすことを仕事と思っているようだ。
耳は聞こえているはずだが、人の話は聞かない。会議中は耳栓をしているのかもしれない。
会議は、声の大きい人が有利だ。
声の質も、バスやバリトンの低音で、響く声がいい。
できれば少ししわがれて、ドスのきいた声だとなおいい。
うっかり反対しようものなら、「表へ出ろ」と言われそうな声だ。
その点私は地声が小さい上に、声の質もテノールで迫力がない。
しかし、たまに風邪をひくと、いつもより低音になって、自分でもうっとりするようなバリトンになるが、いつも風邪をひいているわけにゆかない。
声の大きい人は、昔、応援団や運動部にいた人が多いようだ。
私は静かに音楽を鑑賞したり、読書に親しむという上品な生活を送っていたことが災いしている。
唯一の例外として、ひいきチームを応援する時だけは、皆がびっくりするような大声を出す。
その勢いで会議に出席すれば、周囲の人は静かになるだろう。
作品名:最後の「夜間院長」だった 作家名:ヤブ田玄白