故郷へ帰った (二)
その後、夜は静かにふけて、11時過ぎに当直室のベッドに入り、暇つぶしに当直日誌を読んだ。
10日前の記事に着目した。事件があったのだ。
夜中に、泌尿器科を受診した22歳の男性患者からのクレームだった。
キレまくって「トップを出せ」というので、その夜の院長が出て行くと、「謝れ」と怒鳴ったそうだ。
彼は以前にも何度か夜中に受診したことがあるらしい。
看護師が、彼ではなく、他の患者さんのことで
「あの人、いつも夜中に来る」
と言ったのを、自分が言われたと勘違いして、自尊心を傷つけられてキレたらしい。
その日の「夜間院長」は仕方なく、謝罪したようだ。
しかし、私なら一言、
「泌尿器科が終わったら、耳鼻科を受診して下さい」
とアドバイスしたところだ。
深夜に救急外来受診を繰り返す患者さんは、医療者側からみれば、
「ナーニ夜中に来るほどのものではない。昼間来ればいいじゃないか」と思うが、
この青年の場合、コンビニに行くようなつもりで、夜中に病院に来るのだろう。
コンビニは24時間やっている。
病院だってサービス業だ。そのぐらいガンバレと言うわけだ。
これからはこういう若者が増えるだろう。
事件は、だいたい10日にいっぺんぐらいは起こる。
ひょっとすると、今夜がそのサイクルに当たるかもしれない。
また、10日前の男が来ないとも限らない。
〈やはり今夜は猫を連れてきたほうがよかったかナ〉
と思っているうち、私は朝までぐっすり眠った。
作品名:故郷へ帰った (二) 作家名:ヤブ田玄白