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ヤブ田玄白
ヤブ田玄白
novelistID. 32390
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「検食」だけではすまなかった

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 帰りの電車では、大半が浮かれる人だった。(これからは、節電のため、ウィークデーに休んで、土日出勤の人がますます増えるから、金曜日に浮かれる人は、そのうち減ってくるだろうと思うと、少しは気も休まる)

 いつもの優先席に腰かけていると、向こうからやってくるのは、胡麻塩頭に、キチンとした身なりの私と同年輩のお父さんだった。
しかし、ただのお父さんではない。
左手に鞄を下げているが、右手には、大事そうにカンビールを持っている。(電車は逆方向なので、この時間はいつも空いている。そのため、カンビールなど飲む人がたまにいる)
お父さんの持っていたのは、ほんとうのビールだ。
「アサヒスーパードライ」だった。私が飲む「金麦」とは違う。

 お父さんは、私の真向かいに腰かけた。
私は横を向いて、知らない顔で観察した。
お父さんは、カンビールのプルトップを開けた。
「グビリ」と一口。特にうれしそうでもなかった。
「アー」とか「ウー」とか発しない。
黙ってグビリ。
一休みしてまたグビリ。

 私は、〈完全に負けた!〉と思いました。
あの人は、二つのグループのうち、明日休みの人に決まっている。
明日休みでない人は、こういうことが出来る心の余裕はない。

 服装は、普通のサラリーマンのようだが、靴はちょっと変わっていた。
革靴ではなく、山歩きのトレッキングシューズだった。
〈山の帰りか?〉と思ったが、そうではないだろう。
おそらく、土木建設関係の現場監督か管理者と思われる。
こういう業種では、仕事のあとで一杯飲むのが通例と聞いたことがある。