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強制離婚

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 その日、茂は有華のそばにいた。けれど、有華は茂に抱かれていない。直前に私の部屋に来た茂は、私を抱きにきた。私に言われて茂が自分の寝室に来たと思う有華。そして抱かれない有華。それはタイミングを失った性欲と空気感で、背中合わせな夫婦。悪意もなく、嫌悪もなく、たまたま睡魔に襲われただけかもしれない。私が夫婦にとって当たり前な営みを進める言葉、その繊細な言葉を野暮と思うか必要と思うか、23年の人生では上手く誰も言葉として口に出せなかった。



 少しずつ大人の空気感というものは生きていくうちに理解する。人は自分のタイミングと違う事を言われると、頭でわかっていても素直に中々動けないものみたいだ。空気を読む事が大事なのか、お節介でも言葉に出したほうがいいか、人間は完璧じゃないことを前提とすれば、正解はないのかもしれない。私が良かれと思って言う言葉は、私は法的にも茂と有華の子供。子供に説教される親の気分なのだろうか。



「有華」



「ごめん……まりあ、ほっといて」



 言われて動くことに喜ぶ人は多くないと思う。私もそうかもしれない。私は気づくべきだったのかもしれない。私の言葉で茂が有華がそばにいるということは、茂の心で思っていなかったということ。仕方なく有華のそばに来た茂と感じた有華は、心を抱かれた気分にはならないだろう。亀裂をつくったのは、私だ。



 私はそれから余計なことは言わなくなった。茂が私を求めるなら、それに応じた。私が求めたい時に有華に愛撫をした。けれど有華は、自分の欲を抑える事ができる人。茂の気持ちが自分に向いていないと感じると、自分からは茂に寄り添う事ができない。



 有華のそれは、本人も気付いていないが、嫉妬だったんだと思う。ずっと茂と私に対して思い描いていた未来。四年間も沈黙を守った心は、私でも、もっと好きな相手からの愛情を貰いたい、貰いたい、と唱えるかもしれない。16歳のころ、茂が私に告白した日も、私に気を使って、一度はフッた有華。私に気を使って、四年間も身重な体と不安な生活で身を隠した有華。その有華は、茂が私を想う気持ちの方が、有華が茂を想う気持ちより大きい事で、想いの強さの違いを実感して、有華は私に対して嫉妬している。私は、有華の心を閉ざしてしまう存在。



 私たちの関係。それは繰り返す事はできる。私が強く願い、有華を説得して、茂を説得して、繰り返される3年間。けれど、本当の心は少しずつ隠されてしまう。そして、有華と茂が結婚してから、満3年が経過しようとしている。



 私は尋ねられた。



「まりあ。パパとママ、どっちと一緒にいる?」



 私は指をさした。その結果に、10歳のころの自分が蘇る。有華ママがあんな幸せそうな顔をするなんて思わなかった。



     ―了―

作品名:強制離婚 作家名:ェゼ