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あの日、あの夏、あの子に向けて

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アオイ「......花火、もうすぐかな?」
ツバサ「さぁあな?」
アオイ「お祭りの音、静かになってきたからきっともうすぐだね」

ツバサ『あんなに賑やかだった祭りの音も段々と聞こえなくなっていた』

アオイ「ねぇ? 覚えてる? はじめてお祭りに行った日のこと」
ツバサ「あぁ、アオイが迷子になって泣いて、大変だったよな」
アオイ「むぅー、子供の時の話だよ!!」
ツバサ「ハハハ、今だってこうして手、繋いでなかったら迷子にーーって!! なっーー」

 ツバサ、自然と手を繋いでいたことに気づき、恥ずかしさからか離そうとするが、アオイがギュっとその手をギュッと握り、離そうとしない。

ツバサ「……アオイ?」
アオイ「……」
 
 ツバサ、やさしくアオイの手を握り返す。

アオイ『握り返してきたツバサに嬉しかったり、恥ずかしかったり、感情が混ざり合って……段々と顔が赤くなっていくのが自分でもわかった』
ツバサ『握りかえすと、アオイの顔がほんのり赤みを帯び、それが着ている青紫の浴衣と対照的で……なんだかとても綺麗だった』

ツバサ「なぁ、アオイ! 俺!!!!」

 ツバサの言葉をかき消すように大きな打ち上げ花火が夜空へあがる。

アオイ「わぁー!! 見てみて綺麗だよ!! ツバサ」
ツバサ「おっ、おい!! アオイ!!!」

 手を握ったまま、アオイ、立ち上がる。

 ツバサ、つられて立ちあがり、二人、花火をみるために少し歩く。

アオイ「花火、綺麗だね! ねっ、ツバサ!!」
ツバサ「あっ、あぁ、そうだな」

アオイ『ツバサと二人、空を見上げていると、何発も、何発も、続け様に夜の空に華が咲いた』
ツバサ『アオイが、目をキラキラと輝かせ、花火を見ていたが……俺は……気づけば花火より、花火を見るアオイを見ていた』

アオイ「あっ、今の三色で綺麗だったね! ねぇ、見た? ツバサ!!」

ツバサ『ずっと、一緒にいると思っていた。離れるわけないと思っていた』
ツバサ『あの日、あの夏、アオイは泣いていた。俺は、そんなアオイをただ見ていることしか出来なかった』