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ベリー・ショート (掌編集~今月のイラスト~)

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「でもだめ、とにかく来て!」
 
 自殺しちゃうんじゃないかとは考えなかった、でもとにかくここにじっとしていてはいけない、このままにして置いたら早紀は家と一緒に朽ち果てて行ってしまう、そう思った。
 とにかく都会に出て刺激を受けなきゃだめ、だってまだ20代なんだから、早紀の人生はこれからなんだから……。

▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽

 今、早紀の髪はようやく肩に届くまで伸びた。
「あれ? 美容院行った?」
 会社から帰るとちょっとだけ雰囲気が変わった早紀が待っていた。
「うん、どう?」
「うん、似合ってるよ」
 毛先を切りそろえて整えただけで極端に短くしてはいない、そして以前のように背中まで伸ばすつもりもないようだ。
「あのね、このアパートに空き部屋が出るらしいの、不動産屋さんの窓にチラシが張られてた、あたし、借りようかな」
「このアパートに? 大賛成、さすがにワンルームに二人は狭すぎだもんね、でも同じアパートなら毎日でも行き来できるし」
「でね、駅前のお花屋さんに求人が張られてたから面接してもらった、今週末から来て欲しいって」
「ホント?」
「アパート借りるなら収入がないとね」
「言えてる」
 そう言って笑い合った。
 どうやら吹っ切れたようだ。
 早紀の新しい人生はこれから始まるのだ、お祖母さんも、亡くなったお祖父さんも、そしてもちろん早くして亡くなった早紀のご両親もそれを望んでいるに違いない。
 大事な人を次々と亡くし、最後に残ったお祖母さんの介護も限界まで頑張った。
 早紀はその分幸せになる権利がある、いや、幸せにならなきゃいけない。
「よ~し、今日はお寿司取っちゃお、就職祝いよ、あたしが奢る」
「え~? 悪いよ、そうでなくても厄介になってるんだし」
「いいのいいの、早紀の門出を祝わなくっちゃ、冷蔵庫に貰いものの高級ワインが入ってるはずだからさ、あれ、空けちゃおうよ」
「いいの?」
「ささやか~なパーティだけどね」
「ありがとう、これ、ちょうどよかったな」
 テーブルの上にはピンクのバラが一輪、長めのコップに活けられていた、多分花屋さんでもらってきたんだろう。
 瑞々しいバラが一輪あるだけで、テーブルはぐっと華やいで見える。
 早紀のこれからの人生もこのバラのように明るく、みずみずしく咲き誇ると良いな……。
 由美はそんなことを考えながらスマホに登録しているお寿司屋さんの番号を探していた。