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田中よしみ
田中よしみ
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四人の同窓会

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四人の同窓会

二十年振りの電話
 雌猫のチビにとって公園で拾ってくれた妻と娘は命の恩人だったが、爪とぎを嫌う私は口うるさい存在でしかなかった。
それでも妻子の留守中に節操もなく擦り寄ってきたのは缶詰にありつくためである。私にとってもチビの世話は妻の実家をパスする理由になっていたので、チビとはギブアンドテイクの関係になっていた。

ソファでチビと心地よい眠気に身をゆだねていると家の電話が鳴った。チビも目を覚ましたが、直ぐに何事もなかったかのように喉を鳴らし始めた。
「相原、久し振り、誰だか分るか?」
電話をかけてきた主とは二十年近く会っていなかったが、大脳皮質は彼の声を聴いただけで村木隆一を識別した。
「裏番だろう、直ぐに分かったよ。やけに騒々しいが何処から?」
村木は訳あって裏番長と呼ばれていたが、小柄でも度胸と腕っぷしの強さは学校一の猛者だった。

裏番は高校生の分際でありながら、駅で待ち時間があるとパチンコ屋で時間を潰していた。その軍資金は新聞配達のバイトで稼いでいたが、彼はその資金をパチンコで増やしていると自慢していた。
玉の出が悪い時は台裏の女店員に囁くと出がよくなると自慢していたが、その真偽は定かでなかった。
その女店員が偶然に私の中学時代の同級生だと分り、それが縁で裏番とは卒業するまで親しく遊んだ仲だった。

「今、K中学の同窓会だよ。チェンとデッカンが相原を懐かしがっていたので、それで電話したわけさ」
K町は農村地帯にあったが、K中学からは三人がN商業高校に進学していた。富津彬は百八十五センチの長身の割に細身だったが、カバンには喧嘩用のチェンを隠し持っていた。
外面は不気味な雰囲気を漂わせていたが、小心者の彼がチェンで喧嘩した話は一度も耳にしたことがなかった。というのも、彼はいつも裏番の後ろについている忠実な子分だったからである。

 デッカンは大きいという意味だが、何故かしら富津彬ではなく平山凛子の愛称になっていた。確かに女子高生にしては170センチの長身だったが、可愛げのある女子だったのでデッカンは些か可哀そうだった。
それをチェンに訊いたことがあったが、裏番は今でも170センチ足らずで、子供の頃から彼女と並ぶことを避けていたという。
つまり、デッカンは裏番の身長コンプレックスからきたのだと教えてくれた。
 そう言われてみれば裏番がデッカンと呼ぶのはチェンと私の前だけで、肝心の凛子に面と向かって言ったことはなかった。
それで裏番だけが口にする個人的な愛称だったことが分かったが、裏を返せば凛子への好意につながっていたのかもしれなかった。

 K中の三人組はK駅から高校の最寄り駅まで汽車で通学していた。
村木は毎朝、正規の改札口からホームに入ったことはなく、ショートカットして脇から構内に入り込んでいた。凛子は裏番の危険行為を再三注意していたが聞き分けがなかった。
まるで国鉄の職員のように、動き始めた列車の最後尾に軽業師のように飛び乗っていた。

 裏番は筋肉質の体形で毛虫のような眉毛をしており、ガンを飛ばすには格好の目力があった。頭には座布団のような学帽を斜に被り、金ボタンの上二つはいつも外して、薄っぺらのカバンを小脇に抱えていた。
所謂、典型的な不良だったが、喧嘩相手を捜すために学校はさぼらなかった。

 村木隆一と富津彬は不良倶楽部と揶揄されていたサッカー部に籍を置いていた。彼らはボールよりも相手の脚を蹴って喧嘩を誘発していた。そのために、試合よりもトラブル回避にキャプテンが苦労していたことを思い出した。

 平山凛子はその長身を活かしてバレーボールのエースアタッカーとして活躍していた。
当時は広くて天井高の体育館がなかったので、バレー部は男女共にグランドの外野の一画にあるコートで練習していた。
凛子は長髪を三つ編みにしていたが、炎天下の練習で冬になっても日焼けが褪めることはなかった。彼女が笑うと、顔黒に目と歯がやけに目立ったが、その時のエクボが可愛くて人気があった。

 私が野球部の紅白試合でセンターを守っていた時に、左中間を抜かれたことがあった。その球を追っていた時に、練習中の凛子がさり気なく球を足で止めてくれたことがあった。
その時、凛子が「相原君、頑張って!」と背中越しに囁いてくれたが、お陰で打者走者を二塁で憤死させることができた。

 試合後に凛子の行為が発覚してひと悶着起きたが、凛子とはそれ以来挨拶を交わすようになっていた。
下校時間は原則18時になっていたので、市外からの列車通学者は大概駅前で合流していた。K中学出身の三人組もその中にいた。

 田舎の列車は一時間に一本程度だったので、三人組と駅前の食堂で空腹を満たしながら時間待ちをしていた。
「村木よ、今でも素うどんの味が忘れられないよ、美味かったな」
当時は小遣いがなかったので、駅前の食堂で一番安い素うどんを食べていた。
「そうじゃの、デッカンが奢ってくれた天ぷらうどんは格別の味じゃったな」
凛子がいる時はたまに奢ってくれたが、裏番はそのことを言っていた。彼女の
家は建材店を手広く営んでいたので羽振りがよかったのである。

「富津だけど、俺のこと、覚えている?」
村木の携帯電話がいつの間にか、富津彬に渡っていたが、控え目なところは昔のままだった。
「チェンだろう、覚えているよ。お前、整備士はどうしたのか?」
彼は自動車の整備士が希望だったので地元の自動車会社に入社したはずだった。商業高校では異質の進路だったのでよく覚えていたが、彼の綽名も裏番が名付け親だった。

「卒業以来、整備一筋だが、これでも今は一応整備課長だよ。現在は支店に単身赴任しているけどな」
当時はいつも消極的で裏番の庇護の下にいたが、電話の声には社会人としての自負が感じられた。
「そうか、整備士は昔からチェンの夢だったから初志貫徹だな」
チェンの声に重なって女性の声がしたかと思うと、平山凛子の声に変わった。

「平山ですけど、元気? 高校の同窓会も出てこないし、心配していたのよ」
村木の冷やかすような指笛と共に彼女の懐かしい声が聴こえてきた。
「有難う、元気だよ。凛子はまだ顔黒で三つ編み?」
凛子の顔黒や髪型が気になったが、二十年の間にどういう大人になっているのか、想像がつかなかった。
「もう三十七歳よ、髪は切っているし、日焼けだって褪めているわよ」
彼女は不服そうに言ったが、その電話に村木が割り込んできた。

「今度、四人だけで同窓会やろうか?」
村木は喧嘩の時も手が速かったが、こういう決断も即決だった。チェンは昔から裏番の子分だったので、後は凛子の意向だけだった。
「デッカンの意向を聞いてから連絡するよ」
裏番は今でも凛子のことをデッカンと呼んでいたが、その呼び方が懐かしくもあった。
「俺が港町でセットするから、話が纏まったら連絡してくれよ」
二十年振りに凛子ともっと話したい気分だったが、電話はあっけなく切れた。
チビは喉をゴロゴロ鳴らしながら寝入っていた。


平山凛子との再会
 それから間もなくして、村木隆一から連絡があった。その年の冬隣りに港町の料亭でカルテット同窓会を開催することになった。
作品名:四人の同窓会 作家名:田中よしみ