続・嘘つきな僕ら
店を出て、駅前の人ごみを離れて裏道へ入ると、僕の住むマンションはすぐだ。
この沿線で一番家賃の相場が低いこの街は、駅前にパチンコや古い店が多い。
昔からある商店街は、活気を取り戻すために頑張るというよりは、昔からのお客と長話をするために店を建ててあるんじゃないかというくらい、大体いつも常連と店員が店先で話し込んでいる。
“平和だなあ”
僕はそんな喧騒を離れ、住み慣れたマンションに入って、とうに閉まっている管理人室をちらりと見やってから、エレベーターに乗る。
ドキドキ。ドキドキ。鼓動が近づいてくる。
くたびれていた体が息を吹き返し、彼の元に今すぐ飛んで行けるように、足元がふわつく。
「ただいまー」
玄関を開けて奥にそう声を掛けた時、僕は「えっ?」と声を上げてしまった。
家の中に、料理の匂いがする。それもすごく美味しそうな。
びっくりして慌てて靴を脱ぎ、キッチンに急いだ。
「よう、おかえり」
彼がガス台の前で振り向き、僕に得意げに笑って見せる。
「わあ…!」
キッチンのテーブルにはサラダが用意されて、雄一が向かい合っている鍋では、今正に唐揚げがパチパチと跳ねていた。
「唐揚げと、玉子スープ。それで良かったか?」
「料理作ってくれてたんだ」
テーブルの余ったところに買ってきた物を乗せてから、僕は「ありがとう」と言った。
「二度揚げするから、ちっと待ってな」
「手が込んでるね」
「その方がうまいだろ?」
「うん!じゃあ僕、着替えてくる」
「シャワーも浴びてこいよ。今日暑かっただろ」
彼は微笑んで僕を気遣ってから、唐揚げの鍋に戻って、丁寧に一つずつ鶏肉をひっくり返している。
「大丈夫?全部任せちゃうことになるけど…」
「平気、平気」
「じゃあ、お言葉に甘えて、行ってきます」
「こら、その前に」
そう言って彼は僕をもう一度振り向いて、顎を突き出した。僕は「あ」と声を上げる。
ちょこちょこと彼に近寄って、キスをすると、満足そうな顔をする彼。
「おかえり」
「ただいま」
僕はシャワーを浴びて、戻ってくると、お米も炊けて唐揚げは大皿に盛り付けられ、雄一は玉子スープをお椀に注いでいるところだった。
「ありがとう」
「早く食べようぜ」
「うん、いただきまーす」
「はいよ、いただきます」
わくわくして食べた彼の唐揚げは美味しくて、玉子スープは優しい味がした。
「どっちもおいしい」
「へへ」
サラダに、玉子スープと、唐揚げ。体も嬉しい、元気が付くメニューだ。
雄一は唐揚げの最後の一つを譲ってくれて、僕はからっと揚がった鶏肉を頬張った。
“幸せだなあ”
それから二人でビールを飲んで、今日の事なんかを遅くまで話していた。