続・嘘つきな僕ら
少ししてから、実家の近くを通っているローカル線の線路から、「ゴーッ」という電車が走る音がして、窓が揺れた。その時に、僕達はみんな正気づいたように体を震わせたのだった。
空気がもう一度息を吹き返した後で、母さんがちらちらと父さんの方を窺い、体を少し前に倒して、父さんの顔を覗き込み始めた。母さんは遠慮がちにこう言う。
「ね、ねえお父さん…私達、考えてみましょうよ」
父さんは渋々母さんの方を目だけで見たけど、またすぐに俯いた。でも、母さんは諦めなかった。
「そりゃ、何か言われるかもしれない。でも、二人がこんなに頼むんだもの…信じてやらなけりゃ…それに、稔がさっき、あんな事言ってまで…」
悲しかったんだと思う。母さんは、僕が言った「縁を切る」を、口に出せなかった。僕はその時、心から母さんに済まないと思った。
「母さん、ごめんなさい」
僕は前を向いて、母さんを見つめる。母さんはもう、いつでも泣いてしまいそうな顔をしていた。
「縁を切ったりなんて、しないよ。でも、僕だって、雄一との事を認めてもらえなきゃ…悲しくて、「生きていこう」とすら、思えない…」
すると、母さんは余計におろおろと体を揺らし始め、ちょっと首を振ってから、ついに父さんにしがみついた。
「ねえ、稔がここまで言うのよ、お父さん。考えてあげて!」
母さんが体を揺さぶる度に、父さんの首がふらふらと揺れた。父さんはしばらくぼーっとしていたけど、顔を上げた時には、恐ろしく真剣な顔で、雄一を睨みつけんばかりに見つめていた。
父さんと雄一が見つめ合っている時間は、長かった。でも、雄一は決して目を逸らさず、父さんは必死に、雄一の目の中に何かを探しているように見えた。
二人はそれから、短い話をした。
「…まだ、君の仕事がどんな物かは、聞いていなかったね。雄一君」
「はい。営業職です」
「君に友人は?」
「人並みよりは多いと思います」
「…もし、私が今また「駄目だ」と言ったら、君はどうするんだ」
「何度でも頼みますし、ここに毎週通います」
雄一がそう言った時、父さんは雄一を見つめたままだったけど、やがて下を向いてからもう一度顔を上げ、笑った。それは、明るい笑顔だった。
「それは困る。毎週来られても迷惑だ」
「仕事でよく、そう言われます」
そう言って、雄一も笑っていた。僕はもう一度泣いた。