続・嘘つきな僕ら
その日はたまたま早く上がれたけど、僕はやっぱり残業続きの方が多かった。
家に帰るのは十一時頃で、そうすると雄一はもうくつろいでいて、いつも僕の分の食事がすっかり用意され、食べている僕を雄一は眺めていて、話をしてくれるのだった。
それに、食後に僕がソファでぐったりとしていると、雄一は洗濯物を畳んでくれていたり、いつの間にかトイレの掃除をしてくれていたりするのだ。
「ごめんね、いつも頼っちゃって…」
僕がそう言うと、彼は「いいから。気にすんなよ、そんなこと。できる奴がやればいいんだし」と、僕の頭を撫でてくれる。
“ああ、こんなに迷惑ばかり掛けてちゃダメだ。僕もしっかりしなくちゃ!”
とは言っても、仕事が終わるのはいつも夜の十時は回るし、翌朝は八時には家を出ないといけない。実際に僕には、時間がなかった。
でも、雄一は毎日家事をしたり、僕をよくぎゅっと抱き締めて「おつかれ」と言ってくれる。そんな日々が過ぎていった。
雄一に甘えてしまっているのが、ちょっと怖くて、とても安心した。
“でも、こんなことで、いいのかな…”
僕がそう気にしていた頃、僕の会社に、中途採用である人が入社した。
「鈴木悟です。よろしくお願いします」
彼は過去に事務作業の経験があったので、僕たちが教えることも最低限で済んだし、素直で明るい、いい人だと思った。
僕も鈴木君とはよく話をしたし、ちょっと背の低い僕が、棚の上の段ボールが取れないでいると、ひょいと手伝ってもくれた。
「ありがとう、鈴木さん」
「いえいえ。それにしても、相田さんって、ちっちゃくて可愛いですね」
不意にそんなことを言われたけど、僕はちょっと拗ねる振りを作った。
「やめて下さいよ、一応気にしてるんですから」
僕がその時仏頂面を意識してみたのは、ほんの冗談だったし、彼もそれに笑ってくれた。
「すみません」
でも、そこから数ヶ月すると、彼の様子が少し変わってきた。その頃にちゃんと気づいていれば、あんなことにはならなかったかもしれない。
「相田さん…僕ね、あなたに軽蔑されたくないけど、言わなくちゃいけないことがあるんです。お食事でもどうですか?」
ある日、事務室に誰も居なくなったタイミングを見計らったように、鈴木君が急にそう言った。僕は、彼の酷く思い詰めた様子に、一も二もなく承諾したのだ。