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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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続・嘘つきな僕ら

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その日はたまたま早く上がれたけど、僕はやっぱり残業続きの方が多かった。

家に帰るのは十一時頃で、そうすると雄一はもうくつろいでいて、いつも僕の分の食事がすっかり用意され、食べている僕を雄一は眺めていて、話をしてくれるのだった。

それに、食後に僕がソファでぐったりとしていると、雄一は洗濯物を畳んでくれていたり、いつの間にかトイレの掃除をしてくれていたりするのだ。

「ごめんね、いつも頼っちゃって…」

僕がそう言うと、彼は「いいから。気にすんなよ、そんなこと。できる奴がやればいいんだし」と、僕の頭を撫でてくれる。

“ああ、こんなに迷惑ばかり掛けてちゃダメだ。僕もしっかりしなくちゃ!”

とは言っても、仕事が終わるのはいつも夜の十時は回るし、翌朝は八時には家を出ないといけない。実際に僕には、時間がなかった。

でも、雄一は毎日家事をしたり、僕をよくぎゅっと抱き締めて「おつかれ」と言ってくれる。そんな日々が過ぎていった。

雄一に甘えてしまっているのが、ちょっと怖くて、とても安心した。

“でも、こんなことで、いいのかな…”

僕がそう気にしていた頃、僕の会社に、中途採用である人が入社した。



「鈴木悟です。よろしくお願いします」

彼は過去に事務作業の経験があったので、僕たちが教えることも最低限で済んだし、素直で明るい、いい人だと思った。

僕も鈴木君とはよく話をしたし、ちょっと背の低い僕が、棚の上の段ボールが取れないでいると、ひょいと手伝ってもくれた。

「ありがとう、鈴木さん」

「いえいえ。それにしても、相田さんって、ちっちゃくて可愛いですね」

不意にそんなことを言われたけど、僕はちょっと拗ねる振りを作った。

「やめて下さいよ、一応気にしてるんですから」

僕がその時仏頂面を意識してみたのは、ほんの冗談だったし、彼もそれに笑ってくれた。

「すみません」



でも、そこから数ヶ月すると、彼の様子が少し変わってきた。その頃にちゃんと気づいていれば、あんなことにはならなかったかもしれない。


「相田さん…僕ね、あなたに軽蔑されたくないけど、言わなくちゃいけないことがあるんです。お食事でもどうですか?」

ある日、事務室に誰も居なくなったタイミングを見計らったように、鈴木君が急にそう言った。僕は、彼の酷く思い詰めた様子に、一も二もなく承諾したのだ。




作品名:続・嘘つきな僕ら 作家名:桐生甘太郎