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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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続・嘘つきな僕ら

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7話「恋のお悩み」






雄一は、友だちが多い。

彼が僕と一緒に過ごしていると、必ずいつもスマートフォンには何かしら連絡があり、SNSの通知音がしょっちゅう鳴っていた。

そういう時、雄一はとりあえず画面は見るけど、「ああもう、今大事なとこだっちゅーの」なんて独り言を言って、すぐにスマートフォンをテーブルに置いてくれる。

でも、僕は一度だけ見てしまった。

その日は僕の家で過ごす日で、僕がトイレに行ってきた後の事だ。僕が雄一の後ろに立つと、彼はまだ、裸足で足音もなく近づいた僕には、気づいていなかった。

何気なく彼が見ていたスマートフォンの画面が見えてしまい、それはSNSの個人チャットで、メッセージをやり取りしていた相手のアイコンは、とても可愛い女性だったのだ。

でも、そのくらいで騒いでも、雄一に煙たがられるかもと思ったから、僕はその場は黙っていて、何気なくソファに腰掛けた。

なのに、雄一は現れた僕に驚いてスマートフォンを胸元に隠そうとして、愛想笑いなんてして見せたのだ。



“浮気”

それはおよそ雄一に似合わない言葉だ。

誤解のないように断っておこう。僕は彼が好きだ。だから、その分知っている事がある。

雄一は、気持ちを隠すのが下手だし、まず、隠すという手段を取らない。真っ正直で、そしてそれを罪と思わない。

もちろん照れ屋だから、いつもいつも「好き」と言ってくれるわけじゃないけど、しっかりと態度には出ている。

それに、何年も僕だけを想ってくれていた事を、僕は知っている。

だから、彼が浮気相手とこそこそメッセージをやり取りするなんて、似合わないし、多分やらない。


と、ここまで言える僕でも、嫉妬をするし、不安になるのだ。恋とは恐ろしい。

そんな気持ちを抱えて、僕は次に彼に会う日を待ちながら、“さり気なく聞き出せないかな”と考えていた。




「ねえ、相田さん。その後、彼女とどうですか?」

僕の隣で、谷口さんが唐突にそんな事を言うので、僕は飲もうとしていた野菜ジュースが変なところに入りそうになって、むせ込むかと思った。

でも、動揺を隠して、僕は彼女に向き直る。

「ど、どうって…」

「うまくいってる?」

谷口さんは昼食のサンドイッチをかじるけど、僕は右手に握ったおにぎりに手をつけられなくなってしまった。

「うまく…いってるんですかね…」

僕は、雄一がスマートフォンを隠した時の事を思い出してしまった。

「どしたの?なんかあった?ていうか、やっぱり彼女いたんじゃないですか」

そう言って僕をちょっとだけ睨む谷口さんは、恋の話が好きだ。僕はよく、谷口さんが話す、彼女の知り合いなどの“恋バナ”を聴いている。

僕はその時、“自分は恋の悩みを誰にも話せないんだ”という事に気づいた。

“でも、正体を明かさずに、話だけを相談するなら、もしかすれば糸口を教えてもらえるかも…”

「えーっと、まだ何かあったわけじゃないんですけど、その、ちょっと気になってることならあって…」

「気になってることって?よければ相談乗りますよ?」

「あ、ありがとうございます…」

「あ、でもそろそろお昼休み終わっちゃう。どうします?話長くなりそうなら、今日帰りにどっかお店でも行きますか?」

「えっ!?そ、それは悪いですよ!」

「悪くない悪くない。あ、それとも、彼女さんが心配するかな?二人きりとかだと…」

「いえ、そういうわけじゃ…じゃあ、よろしくお願いします…」

僕がその時断らなかったのは、もしこれから雄一の事で悩む事があったら、谷口さんに頼ってしまいたかったからだ。



作品名:続・嘘つきな僕ら 作家名:桐生甘太郎