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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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続・嘘つきな僕ら

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僕が家に戻ったのは、深夜1時だった。

地下鉄の最終時刻になんとか間に合わせて飛び乗り、買い物もせずに帰宅した。

家には灯りが点いていて、やっぱり雄一が居てくれた。

「ただいま」

そう言っても彼はしばらくむくれていて、ラップに包まれた食事が並んだテーブルに就き、俯いていた。

「ごめんね、遅くなって」

そう言うと彼はこっちを見たけど、すぐにまた横を向いて顔を隠す。

どうして彼が怒っているのかは知っていたから、僕は急がなかった。

「おめでとう、言ってくれないの?」

甘えてそう言うと、彼はぼそっとつぶやいた。

「ちゃんと、その日に言わせろよ。電話も出ずに…」

“君がすねることじゃないのに、そうなっちゃうのが好き”

「ごめん。だって課長が一緒に仕事してたから」

「ふーん」

彼はあまり納得していないように見えたけど、それも意地を張ってるだけだと分かってたから、僕はこう言った。

「僕、雄一のそういうとこが好き」

「うるせえよ」

「あ、照れてる?」

「いいから。あっためて食うぞ」

「はーい。あ、ねえ、ケーキあるの?」

そう聞くと、やっと雄一は笑顔になって、得意げに笑った。

「ある。すんげえのが」

「すんごいの?」

僕たちは手分けして交互にラップをした料理をレンジに運んで温め、終わったら出してラップを外した。

「まずは、飯食おうぜ」

「うん!作ってくれてありがと!いただきまーす」

テーブルの上には、オムライスと、エビフライ、ポテトサラダ、ローストポークがあった。

「え、うそ!このポテトサラダ、手作りなの!?」

食べてみて、じゃがいもの食感がホクホクで、バラバラに違うポテトサラダに、僕はびっくりした。雄一は「おうよ」と返す。

「ええ〜、ありがたいなあ。ポテトサラダって手がかかるんだよね〜」

調理の手順を調べれば分かるが、ポテトサラダは本当に手数が多い。僕は、それを自分のために費やしてくれる愛情に浸かって、幸福を味わった。

「ローストポークも美味しいー!」

「だろ。今日けっこううまくいったんだぜ」

「えっ、これも手作り!?」

「決まってんだろ。うちさ、マンションに元々オーブン付いてて、それで焼いてから、ここに持ってきた」

「何それ女子力高い〜」

ジューシーな豚肉を噛み締めながら僕がそう言うと、雄一は「変な言い方すんじゃねえよ」と照れていた。

エビフライも二人で「美味しい美味しい」と食べ、最後にオムライスにかかる。

「それにしても、このオムライス、どっちも綺麗…どうやるの?これ」

「どうって、時間が来たらひっくり返すだけだぜ」

そう言って首を傾げる彼。相変わらず、頑張り始めると人の何倍も上手くいくんだから。僕は、学生時代に、勉強を始めた途端に優秀生になってしまった雄一を思い出していた。

「ん、美味しい!」

「へへ、よかった」



食後、雄一は僕の家の冷蔵庫から、白い箱を取り出した。

「灯り、ちょっと暗くできるか?」

「あ、うん」

ロウソクに火を点けるんだなと思ったから、彼がライターを手にするのを確かめてから、僕はリモコンで部屋の照明を何段か落とす。

薄暗くなった中で、雄一は調理台に乗せられたケーキに「2」と「4」の形のロウソクを立て、芯に火を灯した。

それから僕が椅子に座って待っていると、大きな丸いショートケーキが目の前に運ばれてきた。

「誕生日おめでとう、稔」

「ありがとう…」

僕は、ため息を吐いていた。

大きく丸いスポンジは、白い柔らかなクリームに隙間なく包まれ、その上からさらに、ぽんぽんと飾りのようにまたクリームをまとう。そして、贅沢にたくさん苺が乗せられたショートケーキは、とても美味しそうで、可愛かった。

ウエディングドレスのような豪華なケーキにうっとりとしていると、雄一が「早く吹き消せよ」と急かす。

僕はちょっと迷ったけど、こう言ってみた。

「一緒にやらない?」

雄一は驚いたみたいだったけど、嬉しそうに笑ってくれて、「いいぜ」と言った。

「じゃあ、せーの…」

ふうう。二人で息を吹きかけると、あっけなくロウソクの火は消えた。

僕たちはケーキに顔を近づけていたので、闇の中で寄り添っているみたいだった。

彼の目は熱く僕を見つめていて、それが近づいてくる。

キスをしていると、テーブル越しに雄一が僕の頭を抱え始めたので、僕は焦って彼を押しのけた。それから、リモコンで部屋の灯りを点ける。

「…ダメ。ケーキ食べてからね」

熱くなった頬をなだめて僕がそう言うと、雄一は不機嫌にはならず、包丁を持ってきて、ケーキを切ってくれた。




作品名:続・嘘つきな僕ら 作家名:桐生甘太郎