続々 神ってる(Aino SPINOFF 3)
其の㉒ ヒョロ毛
込み合うエレベーター、その静寂の中で、愛音が突然、
「うっ・プププ・・・」と笑った。
皆、何ごとかと振り返るが、愛音はうつむいて笑いをこらえている。
エレベーターのドアが開くと、人をかき分けるかのように飛び出して、まだ笑いを我慢していた。
「どうしたん?」
エレベーターで何があったのか知らないが、その滑稽さに僕も笑いながら聞いた。
「だって、くっくくく・・・、私の前の人の頭の毛」
「頭の毛?」
「うん、分け目に短い生えかけが、いっぱい立ってたんだもん」
「ええ? それを後ろから見て、我慢できなかったの?」
「そうなんよ。見ないようにして我慢したんだけど、二度見した途端に吹き出してしまったの」
「珍しいツボの入り方だな」
「だって前にもね。お葬式の時に、前に並んでる女の人の分け目にヒョロ毛がいっぱいあって、お焼香しながら笑いが止まんなかったんよ」
「不謹慎にもほどがある。怒られるだろ」
「ううん。ずっとうつむいて、泣いてるフリしてたからバレんかった」
「罰当たりなやつ。・・・お前にも生えてるぞ」
「うん!? プップププププププ・・・・・・」
作品名:続々 神ってる(Aino SPINOFF 3) 作家名:亨利(ヘンリー)