TM ら~くぬり(おしゃべりさんのひとり言 その96)
モップの開発の方はというと、その広島の会社が自家開発したアクリル系ワックスから、ウレタン系、フッ素樹脂系に加え、カイガラムシが分泌する完全無害な天然ワックスまで様々なラインナップがあり、その中でも特にご自慢の、UVカット効果の高い製品とセットで展開することになりました。(これは本当にいいワックスでした)
ところが、僕がデザインした案は2~3回の変更ですんなり採用になったものの、その構造がちょっと複雑だったために、プラスチック部品の大量生産に必要な金型が、予想外に高く付くことが判ったんです。
モップの販売価格は3000円前後を予定されていて、まずは3000台を販売目標にされていたんですが、金型に何百万円もかけると、赤字なってしまうってことでした。
金型って高いんですね。この時はじめてその相場を知りましたけど。
部品件数を減らして、もっと単純な形にすればいいんですけど、のっぺり特徴のないモップが3000円で売れるでしょうか?
なら元のデザインのまま、販売目標を上方修正して、もっと売り上げを上げるしかないんですが、広島の企業にはそんな営業力はありませんでした。
だからまた僕が一肌脱ぐしかありません。P電工に企画を持ち込んだところ、ある提案をされました。
それは、P電工で開発した家庭用の『電動床磨き機』があったのですが、販売は振るわず在庫だらけ、それをワックス塗りモップと抱き合わせ販売出来ないかという話をもらったんです。
それを受けて広島の企業は大喜び、何故なら最近はフローリングの部屋が増えている大手住宅メーカーに、新築されたお客様へのプレゼントのノベルティとして床ワックス、塗りモップ、それに床磨き機がセットで採用してもらえることになったんです。
役員さんはそのワックス塗りモップに『ら~くぬり』という名前を付けました。なんとも昭和臭いネーミングだと思いましたが、クライアントの意向であれば致し方ありません。
そうなると『ら~くぬり』はもっと良くしないといけませんよね。僕のモードが本気になりました。ただやはり広島の役員さんのご意向で、部品件数は少し減りました。僕はこだわっていた部品が削減されたので残念でしたが、それはノズル内でワックスが固まらないように工夫した部分でしたので、技術的な心配につながります。でもこれは組立ての際に少し工夫すれば解決できると分かっていました。
つまり、僕がデザインしたのは外観だけじゃなく、その構造まで。ワックスの入ったカートリッジタンクをモップに装着して、足踏み式のポンプを踏むと、モップの底からワックス液が出て、床全体に継続的に塗り広げられるというものです。
そのポンプ内部がワックスで濡れないように工夫した構造と、効率よく塗り広げるためにウエスに空いた穴の形状、取っ手の延長を可能にした補強構造、ワックスのタンクを固定するロック機構、取っ手とモップの接合部の留め具の形状等々、合計8個の特許が申請されました。
これは広島の企業との合意で、申請費用は企業持ち、特許権は企業と僕の半々でという話でした。
そこの役員さんは「これが売れた暁には特別ボーナスを出してやろう」と言ってくださいましたし、俄然やる気も出たってわけです。
さらには完成したモップのデザインが好評で、P電工からGマーク(ゴッドデザイン賞)の申請を勧められましたが、広島の企業が申請費用の割に、1円のトクにもならないと判断して、それは実現しませんでした。
金型費用の問題はまだありましたが、日本で作るより中国で作った方が断然安くできます。ただこの提案は、中国製への不信感から年配の役員さんは賛成してくれませんでした。
でも僕は、学生時代の大親友が中国の福建省で起業して、結構大きな会社にして大成功していたので、彼に相談したら、部品は中国で作って組立てだけ日本ですれば日本製を名乗れると聞き、さらに金型製作で失敗しないように、信用できる現地業者も紹介してもらいました。
これでようやく広島の役員さんもOKしてくれたのです。なので僕が中国にまで工場視察に行って、こちらの希望通りのものができるまで、一切支払いはしないという条件で、部品仕入れまので契約を持ち帰ることが出来たんです。
結果、大成功、部品は何の問題もありませんでした。ただ難点は、LOTごとに毎回色合いが、微妙に変わってしまうってことくらい。
でもこの事には役員さんも、目が悪いからなのか、あまり気にしてなかったのでヨシとします。
作品名:TM ら~くぬり(おしゃべりさんのひとり言 その96) 作家名:亨利(ヘンリー)