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信じられない男

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IT系の無難な企業に就職し、大して高くもない給料に満足して暮らしていた。
貯金なんてほとんど必要ない。
人を信じられない僕は、結婚もできない。
年老いた母は、何度も見合い話を持ちかけてきた。
それも、全て断った。
僕は一人で生きていくんだ。
いつからか、そう思うようになっていた。

ある日、会社の昼休み、同僚の女性が声をかけてきた。
独身で、社内でも人気のある女性だった。
「今度、二人で食事でもどうですか」
僕は、廊下の隅でニヤニヤしながらこっちを見ている彼女の友人たちを見つけてしまった。
またか。
僕はからかわれているのか。
それならば。
「ええ、是非お願いします」
笑顔でそう言って、次の日の夜にディナーの約束をした。

次の日。
僕は約束の店の、向かいのビルの二階にある喫茶店にいた。
約束の時間まであと10分。
彼女がやってきた。
キョロキョロとしていたが、僕がいないことを知ると鏡を取り出して髪の乱れを直し始めた。
僕は約束の時間になっても待ち合わせ場所に行かず、喫茶店の窓から彼女の様子をうかがっていた。
きっとすぐに帰るだろう。
もしくは、彼女の悪友がやってきて作戦の失敗を悔やむだろう。
僕は、彼女の企みを暴いてやろうという気でいた。
しかし、30分経っても彼女は帰らず、悪友も現れない。
僕は根性くらべと思って、喫茶店から観察を続けた。
まさか、本当に彼女が純粋に僕の事を食事に誘ってくれたとは、ひとかけらも考えていなかった。
雨が降り出した。

1時間経っても帰らず、悪友も現れない。
彼女は傘をもっておらず、30分雨に打たれている。
もう全身水浸しだろう。
通行人も不思議そうに彼女を見ながら通り過ぎていく。
僕は、その時ようやく自分の間違いに気付いた。
慌てて喫茶店を出ると、僕は走った。
信号機の赤が煩わしかった。
一刻も早く彼女のもとに行き、真意を確かめたかった。
信号が変わった。
駆け出す。
サラリーマン、主婦、塾帰りの学生、自転車、全てが僕の邪魔をする。
じゃまだ。
僕は人ごみをかき分けて走った。
雨の中、傘もささずに走った。
おじさんを一人突き飛ばしてしまった。
背後でどなり声が聞こえる。
でも聞こえない。
今の僕には聞こえない。
作品名:信じられない男 作家名:@龍太郎