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魔女の時間 Walpugis and our world

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侑花とリシア5



 侑花は学校から帰ってくるなり、机の上に参考書やら教科書やら筆記具やらをぶちまけ、椅子にどっかと座った。

 あれれ? 珍しいね。
「何が?」
 侑花が、自ら進んで机に座るなんて。
「あんたねー」

 侑花はふくれっ面で、リシアの言動に抗議した。
 もちろんリシアは侑花の中にいるので、それが見えるわけではない。

「私は女子高生なの。学生の本分は勉強。それのどこが珍しいっての?」
 ああいや、あたしはほら、なんだろうね? やっぱり珍しい。
「あんたは私をバカにしてる?」
 いえいえ。そんなことはないのだよ?
「じゃ、何よ」
 うーん、何と言うのかな。何かなかったかな、ことわざ的な。こうピカッと光るやつ。
「ピカっと光る?」
 そそ。いきなり光って吃驚するやつ。
「……もしかして、青天の霹靂って言いたいの?」
 おお! それだよそれ! 侑花、良く思い出したね!

 リシアは、えらいえらいと侑花を褒め称えた。

「やっぱりあんた私をバカにしてる!」
 
 侑花の手には、リシアのDVDコレクションの『一部』が鷲掴みされていた。

 あ、ちょっとちょっと! それどうするの?
「いかに私が温厚な性格とはいえ、たまに勉強する気になって、それをあろうことか『青天の霹靂』などと言われた日には! さしもの私も『堪忍袋の緒が切れる』わ!」
 おお、侑花。今日は冴えているね。
「…………」

 最期のリシアの一言。これは完全に余計だった。
 みしみし、バキバキ。
 哀れ、リシアのDVDコレクションはその形を歪め、割れ、無残な姿と化した。
 その後、リシアがふさぎ込んだことは言うまでもない。
没 侑花とリシア6

 なんで日本人って並ぶの大好きなんだろうね?
「何を藪から棒に」

 今侑花は、学校が遅刻となることさえ厭わず、家電量販店の列に並んでいた。
 目的は、今日発売の携帯型ゲーム機だ。

「初回生産には特典が付く。それを逃す手はない」
 ……あたしには、その理屈が分からないよ。
「魔女には分からないかなー。残念だねぇ」
 何も並ばなくても。ネットで買っても同じ物が買えるでしょうに。
「いいの。これが醍醐味なのよ。日本の文化なの」
 ……やっぱり分からないよ……。

 見えないが、リシアはきっと頭を抱えていだろう。
 やがて順番が回ってきた。
 並び始めて一時間。侑花が狙うのは赤だ。事前予約もなく、色も選べない。侑花の運が試される。

「まだあるかな……」
 さぁね。
「次のお客様ー」
「あ、はいはいはいはい!」
 何もそんなに元気を使わなくても。

 きっとリシアはため息をついている。同時に、元気を使える体があることを羨ましく思っている。
 たまに借りることはあるが、侑花の体は侑花の物だ。

「ええええ! 赤、ないのおぉぉおお?」

 侑花が絶叫した。

「一時間待ったんですよ? なのにあの一番人気のブラッディレッドがないですと?」
「……申し訳ありません。残っているのはピンクだけなんです。どうなさいますか?」
「ぐ……」

 侑花の心の中では、買うべきか買わざるべきか、激しい攻防が繰り広げられてるに違いない。

 侑花、侑花。
「何よ、今忙しいの」

 侑花は、辺りを気にしたのか、小声だった。

 色くらいなら、変えてあげるよ。
「え、そんなこと出来るの?」
 塗料の皆さんにお願いすれば、出来なくもないよ。
「……塗料の皆さん……」

 侑花は、ピンク色の妖精を想像した。そのピンクの妖精が、頑張ってゲーム機に貼り付いている。
 メルヘンの世界だった。
 結局、初回特典を諦めきれず、そしてリシアの言葉を信じて、ゲーム機の購入に踏み切った侑花だった。
没 侑花とリシア7

「で、このショッキングピンクを、どうやってブラッディレッドに替えるのよ」
 
 ゲーム機の購入と引き替えに遅刻し、担任に叱られ、何とかその日の授業を終えた侑花は、家に着くなりゲーム機の箱を破り、梱包材も破り捨てた。
 中古で売る気はない。
 そう言わんばかりに、ゲーム機をベッドの上に放り投げた。

「さぁリシア。とっととやって頂戴」
 ダメだよ侑花。塗料の皆さんにお願いするんだから、そんな乱暴に扱ったら機嫌を損ねてしまうよ。
「き……機嫌……?」
 それと、体貸してね。あたしじゃないと魔法使えないし。
「……分かった……」

 侑花は、呆然した表情でリシアに体を委ねた。
 瞳の色が変化し、侑花がリシアになった。

「……うーん。やっぱり体があるっていいなぁ」

 リシアは大きく伸びをした。

 早くしてよ。その、塗料の皆さんの機嫌が悪くならないうちに。
「分かってますよ。今やる」

 リシアは、ベッドの上のゲーム機に目をやった。
 見事なまでの、鮮やかなショッキングピンクだ。

 これをどーすんのよ。
「まぁ見ててね」

 リシアは、右手をゲーム機の上にかざした。
 途端、ピンクが濃い赤に変化した。

「ほい。出来たよ。一人が、赤い色のことを知ってたから、楽ちんだったよ」
 赤を知ってた?
「うん。隣にいたらしいのだよ。どれ、戻る?」
 う、うん。

 再び瞳の色が変化し、侑花に戻った。

「……しっかし、何て言うのかな」
 何が?
「魔女は不思議だね。見えてるものが違うのかな」
 まぁ、そうだね。人間よりは、根源に近いかも。
「根源?」
 話すと長いし、面倒だよ?
「……今日はいいや。私は、ゲームしないといけないし」
 それは強制なのですか?
「苦労して手に入れたんだよ? これは、どんなことより優先される」
 宿題は?
「最・優・先!」

 その時だった。

「侑花~。ご飯よ~」

 階下で母親が侑花を呼ぶ声がした。どうやら晩ご飯が出来たようだ。

「はーい!」

 侑花は、ゲーム機をベッドに放り投げ、部屋を飛び出した。

 最優先ではなかったのですか?
「人間の三大欲求にはゲームは含まれていない」
 ……左様で。

 結局、ゲーム機の電源が入れられたのは、それから一週間が経ってからだった。