第五話 くらしの中で
その4
退院して一時は右眼がかなりぼやけていて大丈夫かなと心配になった。体験した人達がみなすぐにきれいに見えるみたいなことを言ったからだ。
保護眼鏡を掛けてぼやけた庭を片方ずつ見比べてみた。手術してない左眼は今まで通りに見えるが、手術した右目はぼやけて見えた。慌ててはいけない、様子をみようと自分に言い聞かせた。
何より大変なのは一日四回の点眼だ。目薬を眼の真上から落としているつもりが横や上方に落ちる。一日に何度も緊張しながら点眼した。眼瞼下垂の症状が術前より強く出ているのも非常に具合が悪い。
とにかくバランスの取れない眼で日に何度も庭に出て樹の葉や遠い山の端を眺めてみた。遠くに焦点を合わせていると医師が言ったが、たしかに遠くはかなり鮮明に見えた。
近くが見えにくいのは日常生活には不自由だ。
眼鏡を作るまでは辛抱しようと不自由な日々を何とか過ごした。
作品名:第五話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子