第五話 くらしの中で
その2
家族が死んで行くのは寂しいことだけど、順番なら仕方がない。
それでさえ夫の死後10年ほど泣き暮らしたという人もいる。
私は夫が亡くなったとき涙を流すことはなかった。
というより、それ以前に突然の大変なことが起きて、戦々恐々と暮らした14年間の始まりのほうがはるかに衝撃的だった。
夫は多少の眩暈がすると言いながら勤めに出ていた。
その日常がある日突然、明け方の異様な叫び声に破られた。突発的に起きた脳梗塞。それは七回もの入院生活の最初だったから何のことやらわからずおろおろするばかりだった。
自力でウォーキングなどのリハビリをして多少回復したころに、再び叫び声をあげて私を驚かせた。もう数回目にもなると、入院の準備はしてあるし救急車を呼ぶことにも慣れて、私はいつもの救急車から連れ出された患者を待つ廊下の椅子で待っていた。
作品名:第五話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子