第五話 くらしの中で
その2
私の母は90歳半ばまで生きて、私ら夫婦と同じ敷地の別棟に棲んでいた。
家全体の管理は夫がしていて、母に何かあると私が病院へ連れて行った。
母には医者の弟がいたので、ある時期まではしょっちゅうレントゲンのことを聴きに立ち寄っていた。母は務めていたころ周辺地域の小学校を周りレントゲンでの検診をしていた。
かなりの目利きだったらしく、表面には明らかでない肺の怪しい影をレントゲン撮影で見つけていたらしい。私が高校生の頃からは山奥や海岸の小学校の検診で出張が多かった。
そういう母も退職してからは自宅で過ごすことが多かったが、まだ70代には勤務先の同僚や医専の友達との付き合いがあってわが家は賑やかであった。でもさすが80代終わり頃からは訪ねて来る者も少なくなり寂しそうだった。
その不満は一緒に住んでいる者、主に私に向けられて、孫に手紙で書いたり近所の奧さんに愚痴っていたことを後になって知った。
作品名:第五話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子