第五話 くらしの中で
その2
母と共に暮らした数十年は経済的にも社会的にも安定した期間であった。母の職業柄、子供の私は周囲の人から敬愛され、それが私には当たり前のような気がしていた。
それでも田舎の学校へ居た小中学時代の、そろそろ自我が芽生え始めた頃から級友たちに白い眼で敬遠されつつ勉強にいそしんで優等生で卒業をしたのである。
苦痛だったあの苦々しい記憶は人生を終ろうとしている今でも消えていない。
私が生き延びれたのは、自分自身の小さなプライドと母の献身的な支えがあったからだ。思い出は傷ついたことのほうが多いが、その中には多分楽しかったことやうれしかった栞が一枚ずつ挟まれていたのだろう。
最終的には大学を卒業し、結婚をし二人の子供を産んで今に至る。
その一つ一つが平坦な道ではなく、このことも喜怒哀楽の激しい経路を辿ったのは過言ではない。
楽しい思い出を如実に思い出そうとしても、真逆の状況が浮かぶのでなかなか良い思い出には辿りつけないのだ。
完
作品名:第五話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子